「百戦錬磨 セルリアンブルーのプロ経営者」ハロルド・ジョージ・メイ著

公開日: 更新日:

 著者は、日本コカ・コーラ副社長、タカラトミー社長を経て、新日本プロレスの社長を務める「経営のプロフェッショナル」だ。

 正直言うと、私は青い目の経営者が好きではない。会社の利益と自らの報酬を引き上げることを目的に、冷徹なリストラを繰り返すからだ。だから、タカラトミーの社長に著者が就任したとき、トミカコレクターである私は、苦々しい思いでみていた。

 著者は、タカラトミーの業績を劇的に回復させたが、他の外国人経営者とは違うぞと感じた事件があった。なんでも鑑定団の「私のお宝売ります」というコーナーに大量のプラレールコレクションが売りに出たとき、社長をしていた著者が、会社用にと買ったのだ。そんなことをしても、会社の利益は増えないが、自社製品への愛情を私は感じた。実際、著者がタカラトミーの業績を向上させたのは、リストラではなく、消費者ニーズを踏まえた高付加価値化によってだった。実際、著者が社長になってから、私の毎月のトミカ代は大きく増えた。それは、大人向けの高価だが魅力的なトミカが次々に発売されるようになったからだ。

 幼少期を日本で過ごし、アメリカの大学で学んだオランダ人の著者は、日本と欧米のハイブリッドだ。だから、欧米の合理的経営をするなかでも、日本人の情感に通じている。その著者が、いま子供のころから大好きだった新日本プロレスの社長に就任して、世界中にファンを増やすとともに、それまで企業の体をなしていなかったプロレス業界に企業経営を持ち込んで、会社を大きく発展させているのだ。

 本書は、とても読みやすい。体験に基づいて、具体的に書かれているからだが、やはり一番楽しいのは、著者の日本人的な感性が本からあふれているところだ。経営者として権力の座に居座るのではなく、コスプレをしてイベントに登場する。成田空港の出発ゲートにガチャガチャを置いて、大ヒットを飛ばしたのも著者だ。そして、初版の本書には、最終ページに袋とじで、おまけのステッカーがついている。おまけ大好きの日本人に向けた心配りを、最後の最後まで貫いている。こんな楽しい経営書は初めてだ。

★★★(選者・森永卓郎)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  2. 2

    永野芽郁「キャスター」視聴率2ケタ陥落危機、炎上はTBSへ飛び火…韓国人俳優も主演もとんだトバッチリ

  3. 3

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  4. 4

    風そよぐ三浦半島 海辺散歩で「釣る」「食べる」「買う」

  5. 5

    広島・大瀬良は仰天「教えていいって言ってない!」…巨人・戸郷との“球種交換”まさかの顛末

  1. 6

    広島新井監督を悩ます小園海斗のジレンマ…打撃がいいから外せない。でも守るところがない

  2. 7

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  3. 8

    令和ロマンくるまは契約解除、ダウンタウンは配信開始…吉本興業の“二枚舌”に批判殺到

  4. 9

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意

  5. 10

    永野芽郁「二股不倫」報道でも活動自粛&会見なし“強行突破”作戦の行方…カギを握るのは外資企業か