「空貝(うつせがい)) 村上水軍の神姫」赤神諒氏

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 九州北部を席巻した戦国大名・大友家を題材とした歴史小説を書き続けてきた著者。屈強な男たちが活躍する作品のイメージが強いが、本作のテーマは何と恋愛。瀬戸内の伝説的女武将・鶴姫を主人公とした恋愛歴史小説だ。

「鶴姫は、大三島(愛媛県今治市)にある大山祇神社の大祝職(大宮司)の娘であり、海の大名と呼ばれた『三島村上水軍』の将でもあります。神職の家に生まれた鶴姫が、水軍の将となったのはなぜか。彼女を主人公とし、“この世でもっとも不本意な悲恋”を描きたいと考えました」

 舞台は1540年代。西の大国・周防国の大内氏が大三島に襲来する。来島、能島、因島の同族三衆から成る三島水軍が迎え撃つも作戦は失敗に終わり、鶴姫の兄で陣代である大祝安房が戦死してしまう。しかし、それは安房がその才を高く買っていた若き軍師・越智安成の策略によるもので、大祝家に対する復讐の始まりだった。

「私のルーツは今治にあり、実は祖先が大山祇神社の神官の出なんです。だから、いつかこの地域を題材に小説を書きたいと思っていました。まだ小説家デビューを果たしていなかった頃、大山祇神社の宝物館で鶴姫の甲冑を見学したこともありました。しかし当時は鶴姫のことをよく知らず、和田竜先生の『村上海賊の娘』のモデルだと勘違いしていたほど。それなら今さら自分が書いても仕方がないと思っていましたが、後々気になって調べてみるとその時代よりも少し前に登場した別の女性だということが分かり、執筆に至ったわけです」

 物語では、巫女として神事に専念していた鶴姫が最愛の兄の死に直面し「大内を打倒し仇を討つまでは女を捨て、人もやめる」と宣言。天賦の軍才で数々の勝利を収めていく。また、安成も正体を隠したまま鶴姫の軍師として戦に加わり、鶴姫の謀殺と三島水軍の壊滅を企てる。しかしふたりにとっての誤算は、戦いに明け暮れる中でお互いに引かれ合ってしまったことだった。

「実は、鶴姫について根拠とされている『大祝家記』は、現在紛失してしまっているそうです。そのため、実在を否定する説もあるほど。鶴姫だけでなく、歴史上の女性は男性と比べて史料も少なく、分からないことが多いですね。しかし、私自身は誰もが知るヒーローよりもマイナーな人物や出来事を題材にするのが好きなんです。史実の空白が多く詳しく知る読者も少ないということは、想像を膨らませて自由につくることができますからね(笑い)」

 本作は、史実をベースとしたエンタメ作品であるという著者。エンタメといっても楽しいばかりでなく、「悲劇が好き」という著書らしい、思いきり泣ける悲恋物語だ。安成はなぜ大祝家に復讐を誓ったのか、そして鶴姫の恋はどうなるのか。戦が人と人とを結び付け、戦によって絆を断ち切られてしまう。本人たちのあずかり知らぬところで絡まり合う運命にもてあそばれる不条理さは、戦国の世を舞台とした歴史小説ならでは。もちろん、水軍の戦いも圧倒的な迫力で描かれており、恋愛小説が苦手という人でも楽しめるはずだ。

「鶴姫をもっと知ってもらうことで、私のルーツである今治の地域活性化につながるといいなとも思っています。タイトルの空貝は、鶴姫の辞世の句に登場するとされている言葉。それが何を意味するのか、作品を読んで感じて欲しいですね」

(講談社 1700円)

▽あかがみ・りょう 1972年、京都府生まれ。同志社大学文学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、上智大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。上智大学教授、法学博士、弁護士。2017年「義と愛と」(「大友二階崩れ」に改題)で第9回日経小説大賞を受賞し作家デビューを果たす。著書に「神遊の城」「戦神」「妙麟」などがある。

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