いま、なぜナチス?

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「SS先史遺産研究所アーネンエルベ」ミヒャエル・H・カーター著 森貴史監訳

 世界中で高まるポピュリズムの嵐。その“本家”に当たるナチスへの注目が高まっている。



 ナチスには、なぜかオカルチックな空気がただよう。制服フェチなどのオタク臭が強いからというだけではない。ナチスの思想自体に神秘主義やアンチ近代主義の性質があるからだ。本書はナチスのなかでもトップエリートの親衛隊に付属してつくられた研究所をめぐる奇書。

 ナチス思想がいかに古代からの伝統を誇り、ゲルマン魂の粋を極めているかを主張するために、文献の残ってない時代の先祖の歴史(先史)を研究する、という触れ込みで設置された組織だ。ここでバイキングなどの北欧神話とゲルマン史が結びつき、ナチスにリンクされた。しかしやがて戦争が始まると、兵器開発や害虫駆除研究、人体実験などへと方向を転換。その結果、あのアウシュビッツのおぞましい惨劇までが編み出されたのだという。

 アーネンエルベは専門のドイツ史やナチス研究家でも詳細を知る人は少なく、本書は最も詳しい研究書として一部では知られていた。だが、あまりに特殊な内容ゆえ、まさか翻訳されるとは専門家ですら予想できなかったらしい。法外な定価だが、オタクに独占させるには惜しい内容が満載されている。

(ヒカルランド 9000円+税)

「図説 モノから学ぶナチ・ドイツ事典」ロジャー・ムーアハウス著 千葉喜久枝訳

 ナチス文化の特徴は「フェチ」。鉤十字の党章や親衛隊の制服、右腕を「ハイル・ヒトラー」と斜めに伸ばす敬礼などいまなお万国共通でオタク心を刺激する呪物が目白押しなのだ。

 本書はそんな側面を念頭に「モノ」に注目してナチス文化を考えるというユニークな事典だ。

 例えば、ヒトラーのあのチョビヒゲ。無名時代にある友人から「変だ」と忠告されたが、本人は意に介さず、これは絶対はやると言い放ったという。そんなエピソードがヒトラーのヒゲ用ブラシ(!)の項目で紹介される。ちなみにこのブラシ、ドイツ敗北のあとでヒトラーの家政婦が黙って持ち去っていたとか。

 カラー写真入りで初めて知る多数の逸話が並んでいる。

(創元社 4500円+税)

「ナチス映画論」渋谷哲也、夏目深雪編

 ナチス本と並んで目につくのがナチス映画。日本でも題名に「ナチ」や「ヒトラー」という単語の入った映画が多数封切られて、映画業界でも話題になったほどだ。

 本書はそんなナチス映画を、映画とドイツ史双方の専門家たちがさまざまな角度から取り上げた論集。

 ヒトラーが登場する映画は多数あるが、実は極悪人として描かれたヒトラー像が悪の魅力を持ってしまう危険性から、戦後ドイツでは長くヒトラーを描くのはタブーだったという。それが近年変わったのは意味づけの変容からだという。

 また映画に限らず、ナチの制服やグッズ、敬礼などがいまなお一部の若者たちを引きつける理由を「キッチュ」の視点で読み解く論考も興味深い。

(森話社 3000円+税)

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