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「デジタルで読む脳×紙の本で読む脳」メアリアン・ウルフ著 大田直子訳

 急速に進むデジタル化と高齢化。そんな時代に「脳」はどうなっているのか。



 読書をしていると心中(脳内)だけが別の世界に飛び立ってしまったような気になることがある。まさに「夢中」になるわけだ。そんな「読む」ことについて書いた「プルーストとイカ」がベストセラーになった小児発達学者の著者。本書は同著者の第2弾だ。

 紙の本が売れ行き不振をかこつのは世界的な現象。代わって電子書籍は急伸している。一般に読書をすればするほど「深い読み」に達する。想像力が敏感になり、知識・推論・分析・共感などが統合されて新しい思考ができるようになる。しかし電子書籍で読むと、物語の筋や細部への注意が紙の本よりおろそかになるという実験結果がノルウェーで出たという。140文字だけのツイッターに慣れた世代に、1文が150から300語以上もあるプルーストはわかるだろうか。著者自身、忙しい日常でメールやデジタル書類の山に埋もれた結果、昔は大好きだった小説を再読してもまったく理解できない経験に愕然とするのだ。

 ではどうするのか。読書をやめるのか。それともデジタル反対と打ち壊し運動を始めるか。本書の後半3分の1はそこから始まる新しい思考の旅。生まれたときからデジタル機器に囲まれた「デジタルネーティブ」世代に深い読書の知恵を伝授する、著者の英知が光る。

(インターシフト 2200円+税)

「老化と脳科学」山本啓一著

 がんの特効薬以上に話題になるものといえば認知症の治療薬。

 高齢化社会ならではの話だが、この認知機能や記憶に関わるのが右脳と左脳の下にある海馬。海馬がなくとも言語を理解したり子ども時代の記憶には変わりないが、新しい出来事や人の名前などは覚えられなくなるのだという。

 視覚や聴覚などの感覚刺激は大脳の連合野で処理され、側頭葉の内側にある嗅内野から海馬に届き、エピソード記憶(日常の出来事の記憶)となってから、前頭葉にある前頭連合野で長期の記憶となるのだという。神経細胞の複雑な集合体である脳のなかで精密なネットワークが働き、人の認知や記憶が形成されていくわけだ。

 細胞生物学者の著者は脳の話から肥満と寿命などの話題にまで軽妙に話を広げる。ちょっとした教養書としても面白い。

(集英社インターナショナル 780円+税)

「『人間とは何か』はすべて脳が教えてくれる」カーヤ・ノーデンゲン著 羽根由、枇谷玲子訳

 脳みそは大きいほうが知能も高い。昔そう教わったが、実はゾウやクジラの一部は人間よりずっと脳が重い。しかしそれは体が巨大だから。体重に占める脳の比率はやはり人間の脳が高いのだ。それでも新生児の脳は未完成。母体の産道を抜けるためだ。したがって人間は生まれてから一人前になるまでに多大な時間を要する生物になってしまったのだ。

 ノルウェーの神経科学者が書いた本書はそんな豆知識がぎっしり。意外にも脳はマルチタスクが苦手。たとえば発言を聞きながら文字を読むなどは同じ神経ネットワークで仕事が競合するのだという。ハンズフリーでもながら運転は必ず集中力低下をもたらすという。世界21カ国で翻訳されたベストセラーだけに語り口は巧みだ。

(誠文堂新光社 2000円+税)

【連載】本で読み解くNEWSの深層

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