「狸の腹鼓」宇江敏勝著

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 スペイン風邪が大正7年の春ごろから都会ではやり始めた。地方まではこないと思っていたのに海岸の田辺の町でも死者が出るようになった。

 熊野の神域の入り口にある高原熊野神社ではスペイン風邪が村に入らないよう注連縄(しめなわ)を張り渡したが、学校も休校になり、大通りにも人影はない。牛車で炭などを運ぶ仕事をしている喜三次は、死者の持ち物を焼く煙を見て、伝染病がはやった1年ほど前のことを思い出していた。

 小学校の同級生だった桝屋の娘、康代は高等女学校に進んで、金持ちとの縁談が調ったのだが、労咳(ろうがい)になって家にこもっていた。康代が会いたがっていると言われて喜三次が枡屋に行くと、康代は、昔、喜三次が教えてくれた蝶の幼虫の巣を見たいという。(「牛車とスペイン風邪」)

 山村に生きる人びとを描く4編の短編。

(新宿書房 2200円+税)

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