「狸の腹鼓」宇江敏勝著

公開日: 更新日:

 スペイン風邪が大正7年の春ごろから都会ではやり始めた。地方まではこないと思っていたのに海岸の田辺の町でも死者が出るようになった。

 熊野の神域の入り口にある高原熊野神社ではスペイン風邪が村に入らないよう注連縄(しめなわ)を張り渡したが、学校も休校になり、大通りにも人影はない。牛車で炭などを運ぶ仕事をしている喜三次は、死者の持ち物を焼く煙を見て、伝染病がはやった1年ほど前のことを思い出していた。

 小学校の同級生だった桝屋の娘、康代は高等女学校に進んで、金持ちとの縁談が調ったのだが、労咳(ろうがい)になって家にこもっていた。康代が会いたがっていると言われて喜三次が枡屋に行くと、康代は、昔、喜三次が教えてくれた蝶の幼虫の巣を見たいという。(「牛車とスペイン風邪」)

 山村に生きる人びとを描く4編の短編。

(新宿書房 2200円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 2

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  3. 3

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  4. 4

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  5. 5

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  1. 6

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  2. 7

    今度は横山裕が全治2カ月のケガ…元TOKIO松岡昌宏も指摘「テレビ局こそコンプラ違反の温床」という闇の深度

  3. 8

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    大谷翔平のWBC二刀流実現は絶望的か…侍J首脳陣が恐れる過保護なドジャースからの「ホットライン」