「ジェンダーで読み解く 男性の働き方・暮らし方」多賀太氏

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 学校を卒業したら会社に就職し、定年を迎えるまで競争させられながら人生の大半を仕事に捧げる。男性にとって当たり前とされてきたこうした生き方は、本当に男性を幸せにしてきたのか。

「男性がサラリーマン的な生き方を問い直すのは、失業や定年で仕事を失うか、離婚や死別でパートナーを失うか、病気になって健康を失った時だといわれてきました。男性は長年女性よりも恵まれた社会的立場に置かれていたため、何かが起こらなければ自分の生き方を問い直す必要がなかったからですね。しかし2000年以降、このままの生き方ではいけないと感じる男性が日本でも以前よりも増えてきました」

 性的役割分業を規範とする従来の日本社会は、女性に社会的活躍の機会を制限している一方で、男性には「男は家族を養えてこそ一人前」「男は弱音を吐くな」といった男らしさを強要してきた。

「男性はジェンダー平等などといわれると、なんだか女性に責められているような気持ちになりがちですが、実はジェンダー的視点は男性自身が置かれている生きづらさを解消させてくれるものでもあるんです。たとえば、共働き夫婦がもめる原因になりがちな子育ての負担は、夫婦の問題ではありません。家庭生活や地域生活を犠牲にして働くことが前提になっている社会の仕組みの方に問題があるのです。男女間でいがみあっている場合ではありません。共通の敵を見据えてどこをどう変えていけばいいのか、働き方を変えてくれる議員を国会に送り出すなり、ロビー活動をするなりして世論を動かしていく必要があります」

■ジェンダー視点で男性の生きづらさを解消

 本書は、男性学を専門とする著者がジェンダーやワーク・ライフ・バランスという視点から、日本の男性たちの諸問題を解説したもの。男性稼ぎ手社会が生み出した過重労働やハラスメントなどの諸問題、家事・育児・教育における男性の在り方の変化、DVや虐待などの問題を幅広く取り上げて考察している。

「ハラスメントのない職場づくりに男性はどう関わるか」の章では、ハラスメントに対する世代間ギャップについて言及。1948年生まれ、1968年生まれ、1988年生まれの3つの世代を取り上げ、それぞれの世代の男性にどのような社会的な期待が課せられ、どのような時代を生きていたかを解説することで、価値観の形成がどのように異なってきたかを具体的に紹介している。

「以前は男性も若いときに我慢していればいずれ益が得られましたが、今は少数の男性だけが利益を独占していて多くの男性は割を食うだけで終わるような社会になっています。社会構造として男性優位であることは確かですが、世代によって、ライフステージによって、学歴や職種、雇用形態、地域によっても利益の度合いが違い、多くの男性が抑圧されているばかりで自分たちが優位だなんて実感が持てなくなっている。実際アンケートをとると、日本の男性の幸福度は低いことがわかっています」 

 会社からも家庭からもプレッシャーを受けている男性たちは、どのように現状を打破したらよいのか。その解決の糸口として著者は男性同士で男性の働き方や暮らし方について語り合うことを勧めている。

「スナックのママに愚痴を聞いてもらうみたいなストレス解消法もあるでしょうが、残念ながらそれでは解決にはつながりません。かといって、女性から話を振られると身構えてしまいがちですから、まずは本書を参考にして同性同士で率直にどう感じているのか話し合ってもらえたらと思います。そして影響力のある男性たちが、今の社会状況を理解して本人も変化しつつ、若い人たちの変化を邪魔しないことが重要なのではないでしょうか」

(時事通信社 1980円)

▽たが・ふとし 1968年生まれ。関西大学文学部教授。九州大学教育学部卒業後、同大学院に進み、99年「男性のジェンダー形成に関する研究」で博士(教育学)を取得。著書に「男らしさの社会学」「揺らぐサラリーマン生活」「男子問題の時代?」などがある。

【連載】著者インタビュー

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