「大人の食物アレルギー」福冨友馬氏

公開日: 更新日:

 食物アレルギーと聞くと、子どもに起こる疾患と思う人は多いだろう。ところが近年、“大人の食物アレルギー”が増えているという。

「大人の患者さんが増えたな、という実感はありますね。食物アレルギーは、食品などを摂取することで起きる疾患ですが、子どものときには起こらなかったので、驚く人もいます。今まで問題なく食べていたものでも、食べ続けているうちにアレルギーになることもあるし、体質の変化もある。大人の食物アレルギーの原因は非常に多岐にわたるので、子どものそれより厄介なんですよ」

 本書は、大人になってから発症する食物アレルギーのメカニズムから最新治療までを解説した一冊。全国に20人ほどしかいない成人食物アレルギーを診療できる専門医であり、研究・治療の第一人者でもある著者が、図や表などを多用しながら、わかりやすくまとめた。

 食物アレルギーは、原因となる食品を摂取したことで起きるようなイメージがあるが、実はこれだけではない。意外なことに生活の中に存在するアレルゲンが食物アレルギーに関係して発症する場合があるのだ。約10年前に起こった「旧茶のしずく石鹸」による食物アレルギーの集団発生は、その顕著な例だ。

 石鹸に入っていた加水分解小麦という小麦由来の成分にさらされることにより小麦に対してアレルギーを起こすようになり、口にした食品に含まれていた小麦アレルゲンタンパク質にも反応して、食物アレルギーを発症したのだ。

「あの事故は、食物アレルギーは食品を摂取することによって発症する、という先入観を覆す大きな出来事でもありました。このように化粧品など身近なものが関与してアレルギー反応を起こすことがあり、これを“交差反応”といいます。環境アレルゲンと食物アレルゲンの形が似ていると、免疫細胞が間違って異物と見なし、免疫反応を起こすんですね。その典型が、花粉アレルギー。つまり、花粉症の人は、食物アレルギーになる可能性がある、ということです」

■「ラーメンを食べてアナフィラキシーショック」の原因は…

 国民病ともいわれる花粉症が食物アレルギーを引き起こすとは驚くばかりだが、例えば、本州では現在、飛散真っただ中のヒノキ科花粉(スギ・ヒノキ)症の人は、リンゴやモモなどのバラ科果物、柑橘系果物、梅干しで交差反応を起こすことがあるという。草の花粉(イネ科、ブタクサ、ヨモギ)症の場合は、メロンやスイカなどのウリ科、トマト、バナナなどがそれだが、幸いなことにどちらのケースも発症する人は少ないという。

「注意が必要なのは、シラカンバ(白樺)などのカバノキ科花粉症ですね。北海道やヨーロッパではメジャーで、関東でも私が勤務する相模原などの緑地に多いんですよ。交差反応を起こすのは、バラ科の果物や大豆製品で、特に豆乳を飲んだときに口腔アレルギーやアナフィラキシーを発症する事例が多く見られます。以前、『ラーメンを食べてアナフィラキシーになった』という高齢男性が診察に来たのですが、実は麺の小麦ではなくラーメンに添えられたモヤシが原因でした。カバノキ科花粉症では、モヤシによる発症も多いんです」

 ほかにも、鮮魚や甲殻類の調理や加工に携わる人が、同じ食物を素手で扱い続けることによって、皮膚を通してアレルゲンに暴露する例や、運動や解熱鎮痛剤などが引き金になって食物アレルギーが発症する事例、症状のタイプまで詳しく紹介している。

「アレルギーの患者さんはご自身の生活を見直すことでかなり良くなることもあります。例えば、筋肉がしっかりある人はアレルギーが悪化しにくいですね。アレルギーのひどい人にジムで運動してもらい、症状が軽減したこともあります。アレルギーは一筋縄ではいかない疾患で重篤にもなりえますが、むやみに恐れることはありません。成人食物アレルギーとは何かを知り、正しく恐れてもらえたらと思います」

(集英社 880円)

▽ふくとみ・ゆうま 1979年、山口県生まれ。独立行政法人国立病院機構相模原病院臨床研究センター臨床研究推進部アレルゲン研究室室長。医学博士。広島大医学部卒。沖縄県立北部病院を経て2006年から相模原病院アレルギー科に勤務。著書に「臨床現場で直面する疑問に答える成人食物アレルギーQ&A」など。

【連載】著者インタビュー

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    「二股不倫」永野芽郁の“第3の男”か? 坂口健太郎の業界評…さらに「別の男」が出てくる可能性は

  3. 3

    気温50度の灼熱キャンプなのに「寒い」…中村武志さんは「死ぬかもしれん」と言った 

  4. 4

    U18日本代表がパナマ撃破で決勝進出!やっぱり横浜高はスゴかった

  5. 5

    坂口健太郎に永野芽郁との「過去の交際」発覚…“好感度俳優”イメージダウン避けられず

  1. 6

    大手家電量販店の創業家がトップに君臨する功罪…ビック、ノジマに続きヨドバシも下請法違反

  2. 7

    板野友美からますます遠ざかる“野球選手の良妻”イメージ…豪華自宅とセレブ妻ぶり猛烈アピール

  3. 8

    日本ハム・レイエスはどれだけ打っても「メジャー復帰絶望」のワケ

  4. 9

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  5. 10

    自民党総裁選の“本命”小泉進次郎氏に「不出馬説」が流れた背景