「教養としての『焼肉』大全」松浦達也氏

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 今や寿司、ラーメンに並ぶ国民食である焼き肉。ただ焼くだけで誰でもおいしく食べられるとあって老若男女問わず人気だが、果たして焼き肉には「正しい焼き方」があるのをご存じだろうか。

「料理の最終工程で、もっとも重要かつ技巧が求められる“焼く”を客に任せる日本の焼き肉は、世界的に見ても珍しい食べ物なんですね。つまり焼く人の腕次第(笑)。ただ好き勝手に焼いているだけでは肉はおいしくならないんです」

 本書は、年間100軒超の焼き肉店を食べ歩く“ヤキニクスト”の著者による、焼き肉徹底解説本。食文化の歴史から店の選び方、究極の味わい方までを完全網羅した大全であるが、大きな特徴は肉とうまさの関係を科学的に紹介している点だ。

 著者によると、肉の種類にかかわらず重要なのは「焼き網(鉄板)が温まるまで5分待つ」「肉は火力の強いところへ」「肉は置いた隣にちょうつがいのように返す」の3つ。特に網の準備は怠ると、肉を置いたとき、ジュー! の音がせず盛り上がらないし加熱によりタンパク質と糖が結合するメイラード反応が出ないので香ばしい香りもナシ。残念な出だしになるのである。

 そのうえで、注文の流れと焼く順番はこうだ。

「最初はタン塩、できれば厚切りタンから焼くのが鉄則です。網が温まっていても最初のうちは肉がくっつきがちですよね。それを防ぐために、脂肪と塩味のある肉をタンを1枚、網の上をなでつけるんです。肉由来の水分と脂分で網がコーティングされるうえ、塩味なので網も汚れません。2皿目はハツやシマチョウなどの塩ホルモン系。脂があるのでさらに網が育ちます。3皿目はタレカルビ、ハラミというふうに、後半に行くにつれ味が濃くなるように組み立てるといいですよ」

 塩味からタレへの流れは網という“焼き場”を育てるだけでなく、食感にも抑揚がつく。上手に焼ければタン塩はザクッとした食感、ミノのサクッとした感じが楽しめる。

■部位ごとのうまい焼き方の極意も伝授

 さらに本書では部位ごとの焼き方の極意も紹介している。

「簡単に言うと、肉は表皮に近いところにあり自分の意思で動かせる横紋筋と、胃や腸など自分の意思で動かせない平滑筋に大別されます。横紋筋は縮みやすいので肉汁を逃さないことがポイント。平滑筋は縮みにくいので好きな加減まで焼いていい、というのが目安です」

 平滑筋であるホルモンは中火弱で、皮を下にして、水分をじっくり抜くように焼く。

 横紋筋バリバリのカルビやロースは、強火でガンガン焼かずに、中火ゾーンできっちり焼き目を入れ、内部はミディアムレア程度に仕上げると、うまさが堪能できるという。

「法則にのっとって焼けば、おいしい肉はよりおいしく、そうでない肉だとしても、そこそこに仕上げることはできます(笑)。ぜひ安全においしい焼き肉を楽しんでください」

 ほかにも正肉ならロースター台、レバーは焼く方がおいしい、いい店の見分けなど情報満載だ。

(扶桑社 1650円)

▽松浦達也(まつうら・たつや) 東京都出身。調理の仕組みや科学、食文化史などを踏まえ、料理誌や新聞、ウェブメディアまで幅広く執筆・編集を手掛ける。エビデンスに基づいた実践形式で大量に焼く焼き肉関連の企画も多い。著書に「家で『肉食』を極める!」。

【連載】著者インタビュー

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