「白河夜船」吉本ばなな著

公開日: 更新日:

 寺子は無性に眠くて仕方がない。いくら寝ても満ち足りず、電話のベルも、窓の外の喧噪も、その耳には届かない。ただ、恋人の岩永さんからの電話だけは分かる。寺子は、寝起きの彼女の声を聞いていつものように「また寝てたんでしょう」という岩永さんのその言い方が好きで好きでたまらない。

 出会ったときから彼に奥さんがいることは知っていた。初めて海にドライブに出かけた日、奥さんが植物状態で、もう目覚める可能性がないことを聞いた。彼は奥さんのことを話したがらないが、彼は夫として親戚らの前でどうふるまうべきかを知っている。だが、そうすることで、ひどく疲れているようにも見える。だから寺子は、親友のしおりが死んだことを彼に打ち明けることを躊躇してしまう。

「添い寝」を仕事にしていたしおりは2カ月前に自殺。しかし、なぜ彼女が死を選んだのかは寺子には分からない。寺子は彼に会う時間を確保するため、仕事も辞めて、ただ寝ながら電話を待っている。

 表題作の他、眠りをモチーフにした2編を収録した作品集。

(新潮社 539円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    金足農・吉田大輝は「素質は兄・輝星以上」ともっぱらだが…スカウトが指摘する「気がかりな点」

  2. 2

    【夏の甲子園】初戦で「勝つ高校」「負ける高校」完全予想…今夏は好カード目白押しの大混戦

  3. 3

    中央学院戦の「1安打完封負け」は全部私の責任です。選手たちにもそう伝えました

  4. 4

    参政党・神谷代表が予算委デビューでダサダサ提案 ムキ出しの「トランプファースト」に石破首相もNO

  5. 5

    金足農(秋田)中泉監督「やってみなくちゃわからない。1試合にすべてをかけるしかない」

  1. 6

    ドンが次々に退く“昭和の芸能界”の終焉…権力集中、ムラ社会化したいびつな世界だった

  2. 7

    ドジャース大谷翔平の突き抜けた不動心 ロバーツ監督の「三振多すぎ」苦言も“完全スルー”

  3. 8

    8.31に「備蓄米販売リミット」が…進次郎農相は売れ残りにどう落とし前をつけるのか?

  4. 9

    世耕弘成氏がもたらした和歌山政界の深いミゾ…子飼いの参院議員が自民から除名、“紀州戦争”の余波続く

  5. 10

    菊池風磨率いるtimeleszにはすでに亀裂か…“容姿イジリ”が早速炎上でファンに弁明