美食から奇食まで「世界の食の本」特集

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「幻の麺料理再現100品」魚柄仁之助著

 味覚というものは世界共通ではない。民族や文化、宗教、気候などによって異なる。どれが「美食」で、どれが「如何物食い」かを決めるのは、あなた次第です。

  ◇  ◇  ◇

「幻の麺料理再現100品」魚柄仁之助著

 昭和の少年にとってカレーライスは代表的洋食だったが、カレーうどんのときは「洋食だぁ~」という舞い上がり方はしなかった。

 蕎麦屋でざる蕎麦を食べている人の横でカレーうどんを食べるのは負い目を感じた。カレーライスのカレーとカレーうどんのカレーは似て非なるもので、レシピが違う。カレーうどん用のカレーはカツオ節や昆布、煮干しなどの和食系だし汁の味付けになっている。カレーライス用のカレーをうどんにかけてもおいしくない。

 カレーうどんのレシピが料理本に載るようになったのは大正時代からで、「かけ汁系」と「餡かけ系」がある。著者は婦人雑誌のレシピを参考にし、「かけ汁系」と「餡かけ系」のカレーうどんを比較検証してみた。

 シチュー風のカレー南蛮や、インスタントラーメンを使った五目蕎麦の作り方など、100品のレシピを紹介した役に立つ食の本。

(青弓社 2200円)

「世界の奇食の歴史」セレン・チャリントン=ホリンズ著 阿部将大訳

「世界の奇食の歴史」セレン・チャリントン=ホリンズ著 阿部将大訳

 1908年、カールトンホテルで働いていたエスコフィエは、輸入されたウシガエルの脚を使った料理を「夜明け前の妖精の腿」と名づけて食卓に出した。エドワード皇太子はこの料理を作ったシェフを称えたと、「ラルース料理大事典」に紹介されている。

 12世紀のフランスの修道院では、修道士が過食により肥満していることが問題になり、1年のうち何日かは肉を控えるように命じた。修道士はカエルを魚類に分類して、カエル肉のごちそうを食べていた。1組のカエルから何千匹もの子孫が生まれるため、欧米ではカエルの養殖が盛んになったが、カエルの成長に時間がかかり、経費や手間もかかる。野生のカエルが減少して、経営破綻する会社もあった。

 ほかに、ハチの幼虫やアリの卵を材料にする昆虫食など、世界の「奇食」を紹介する。

(原書房 2750円)

「独裁者の料理人」ヴィトルト・シャブウォフスキ著 芝田文乃訳

「独裁者の料理人」ヴィトルト・シャブウォフスキ著 芝田文乃訳

 サダム・フセインが、チグリス川を下る船旅に友人を招待した。今日は大統領がみんなのためにコフタを作ると言われたので、料理人のアブー・アリは牛肉と羊肉の合いびきにトマトなどを混ぜて下ごしらえをした。

 ところがフセインが作ったコフタを味見すると、口の中が燃えるように熱い! 「水を、早く、水を!」。誰かがフセインを毒殺しようとしたのかとアリは思った。実はフセインは、もらったタバスコソースを自分は食べない料理で使ってみたのだ。

「もしも私がこんなふうに肉を駄目にしたら、サダムは私の尻を蹴って、金を返せと命じたはずだ」と思わず口走ったら、フセインは50ディナールをアリに渡した。(「朝食」)

 ほかに、クメール料理を見下してフランスパンと缶詰の料理しか食べなかったポル・ポトなど、食から見える5人の独裁者の素顔を紹介。

(白水社 3300円)

「大胆推理!ケンミン食のなぜ」阿古真理著

「大胆推理!ケンミン食のなぜ」阿古真理著

 沖縄県民はバーベキューが好きで、よく海辺でバーベキューを楽しむ。

 海に囲まれているのに魚でなく肉を好むのは、琉球王国時代の政治家、蔡温が、農民が海で魚や貝をとると農業がおろそかになると考え、漁を制限する漁業抑制政策をとったからだと思われる。

 沖縄には中国から豚肉食が入ってきて、15世紀前後から豚を飼育するようになった。漁業抑制政策をとったのは、養豚でタンパク源を確保できるようになったからではないか。

 ほかにも、金沢に砂糖や甘味料が入った「甘口しょうゆ」がある理由など、全国各地の嗜好や食事情を考察した一冊。

(亜紀書房 1760円)

「世界の食卓から社会が見える」岡根谷実里著

「世界の食卓から社会が見える」岡根谷実里著

 世界の台所探検家の著者は、ヨルダンでシリア難民の家庭に世話になった。難民といってもテント張りのキャンプに住んでいるのではなく、しっかりした石造りの建物で部屋も3部屋ある。

 ヨルダン人は「シリア人が来て街の菓子屋のレベルが上がった」という。ゴマまみれのクッキーや、デーツ餡を詰めたクッキーのマアムールなどが好評だ。

 ヨルダン政府が2016年に、シリア難民が正規の仕事に就けるよう就労許可基準を緩和したので、菓子屋などのビジネスも認められるようになったのだ。内戦から逃れてきた難民の受け入れには大きな財政支出も必要だが、ヨルダンはシリア難民を受け入れ、共生していこうとしている。

 ほかに、ベトナムから来日した技能実習生が作るベトナムの精進料理などを紹介。料理を通して世界の国を知ることができる。

(大和書房 2090円)

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