ロックが商業化される前の貴重な記録

公開日: 更新日:

「リバイバル69 伝説のロックフェス」

 1960年代は何かにつけて神格化されがちな時代だ。60年の米大統領選で勝利したケネディはわずか3年後に暗殺され、翌々年にはベトナムで地上戦開始。68年には学生運動が世界中で火を噴く。確かに伝説の要素には事欠かない。

 今週末封切りの「リバイバル69 伝説のロックフェス」はその一部にまつわる音楽ドキュメンタリーだ。69年は有名なウッドストック・フェスティバルの年だが、こちらはひと月後にカナダのトロントで開かれたイベントである。

 同じ北米とはいえ、音楽市場でカナダはマイナーな存在。しかしウッドストックに出演しなかったビートルズのジョン・レノンがヨーコと登場することになり、トリにはドアーズも出演。半年前にマイアミで観客とトラブルになったばかりだっただけに気合の入ったギグになった。

 今回は未公開の16ミリと新発見の8ミリフィルムが含まれ、興行の舞台裏まで新たに取材した新作ドキュメンタリーである。

 当時20歳でレノン夫妻に助手として仕えたアンソニー・フォーセットの証言が入るなど、ロックの商業化が徹底される直前の記録として貴重なフィルムだ。関係者のひとりが「エイズの前のフリーラブの時代」と語っているが、もうひとつ、客の大半が白人で苦労知らずの顔をした若者たちであるのも印象的だ。

 福屋利信著「ロックンロールからロックへ その文化変容の軌跡」(近代文藝社 2200円)はアメリカのポピュラー音楽史と移民史を重ね、移民労働者家庭の若者が流行の先触れを担った「ロックンロール」と、中流の若者が受容した「ロック」の間には分節があると論じる文学研究者の試論。ロック全盛の70年代の人気バンドの大半が白人だったことを思うにつけ、対抗文化の陰にあった人種と階級の境界を思う。 <生井英考>



最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  2. 2

    巨人が楽天・辰己涼介の国内FA争奪戦に参戦へ…年齢、実績的にもお買い得

  3. 3

    マエケンの「DeNA入り」が急浮上! 古巣広島まさかのNO、巨人はマー君が足かせで動けず

  4. 4

    サッカー界で囁かれる森保J・長友佑都の“お役御免”と大物選手の代表復帰

  5. 5

    ドジャースの“朗希タンパリング疑惑”で大迷惑!米29球団&日本プロ球団こぞって怒り心頭の納得理由

  1. 6

    公明党が「自民との連立離脱も辞さず」の背景…まさかの“国政撤退”もあり得る深刻事情

  2. 7

    囁かれていた「Aぇ!group」は「ヤベぇ!group」の悪評判…草間リチャード敬太が公然わいせつ容疑で逮捕の衝撃

  3. 8

    ドジャース佐々木朗希の抑え起用に太鼓判も…上原浩治氏と橋本清氏が口を揃える「不安要素」

  4. 9

    高市早苗総裁はまだ首相じゃないのに閣僚人事?「内閣の要」官房長官に“激ヤバ”木原稔前防衛相のワケ

  5. 10

    ドジャース大谷翔平は“自信のデカさ”も世界一! 二刀流は「自分にしかできない役割」と会見で断言