著者のコラム一覧
金井真紀文筆家・イラストレーター

テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て2015年から文筆家・イラストレーター。著書に「世界はフムフムで満ちている」「パリのすてきなおじさん」「日本に住んでる世界のひと」など。

「サザエさん 旅あるき 海外編」長谷川町子美術館編

公開日: 更新日:

「サザエさん 旅あるき 海外編」長谷川町子美術館編

 父はパスポートを持つことなく生涯を終えた。「海外なんて危ないし汚い」と、行ったこともないくせに悪口を言った。隙あらば海外をほっつき歩きたいわたしに対しても否定的なことばかり言ってたなぁ。話がかみ合わない父娘だった。

 しかし父の母親、わたしの祖母である大正生まれの静子さんは何度も海外旅行をしていた。歩け歩け運動に傾倒し、お仲間と一緒にオランダだのスイスだのアメリカだの、よく出かけていたっけ。祖母の家には海外で買ってきた人形が並んでおり、子どもだったわたしはその棚がなんとなく怖かった。

 さて今回紹介するのは、漫画「サザエさん」の作者・長谷川町子の旅の記録集。町子さんは海外旅行をしまくった人だ。1964年の海外渡航自由化の直後から、北米、中東、オセアニア、北アフリカ……。ヨーロッパなんて5回も周遊している。

 本書に収録されているのは旅先でのスケッチ、新聞に掲載された漫画やエッセー。のみならず歴代のパスポート、愛用のスーツケースやカメラ、旅先から友人に出した手紙、各地で買ってきたお土産の写真……さすが「長谷川町子美術館編」ならではの充実ぶりである。旅を追体験するのも楽しいが、60~70年代の海外旅行を伝える資料としても興味深い。

 年表を見て気がついた。町子さんは長期の海外旅行に出かけるたびに、「サザエさん」の新聞連載を1カ月以上休載しているのだ。思い切りのよさがすごい。人気作家ゆえ許されたわがままなのか。それともメールも携帯電話もない時代、旅先まで追いかけてくる無粋な仕事はなかったのかなぁ。

(朝日新聞出版 2970円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは

  4. 4

    柳田悠岐の戦線復帰に球団内外で「微妙な温度差」…ソフトBは決して歓迎ムードだけじゃない

  5. 5

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    ローラの「田植え」素足だけでないもう1つのトバッチリ…“パソナ案件”ジローラモと同列扱いに

  3. 8

    ヤクルト高津監督「途中休養Xデー」が話題だが…球団関係者から聞こえる「意外な展望」

  4. 9

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 10

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?