著者のコラム一覧
嶺里俊介作家

1964年、東京都生まれ。学習院大学法学部卒。2015年「星宿る虫」で第19回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、デビュー。著書に「走馬灯症候群」「地棲魚」「地霊都市 東京第24特別区」「昭和怪談」ほか多数。

日本は幽霊、海外はリビングデッド ~『寝煙草の危険』~

公開日: 更新日:

海外の『怖い』は形があるかどうかがポイント

 今回は海外作品です。

 地域特性と文化圏、そして感覚の違いから、海外では日本とは異質なホラー作品が数多く生まれています。北方文化圏に根付く霊界との交信術シャーマニズム、中国のキョンシー、日本の陰陽師など、独自の文化は分かりやすいですよね。特に日本の陰陽師は呪文やら御札やら式神やらを駆使して戦ったりするので、ビジュアルとして映えます。

 ちなみに古い城や老木に意志が宿って怪物になる、という感覚は世界共通ですね。日本なら付喪神(つくもがみ)でしょうか。ホラー作品だと、住居や車や自動洗濯機までモンスターになっています。

 まず、ホラー作品の海外と日本の違いについて。主に感覚の違いでしょうか。

 恨み辛みや心残りといった情念が澱(おり)となってこの世に遺っているものが幽霊。日本は、無形の幽霊文化です。しかし海外では、これを『怖い』と認識されるかどうかは、形あるものになっているかが焦点になります。

「化けものであれば触れるので、襲われたら危害をこうむるのは感覚として分かる。でも怨念などは無形なので、殴られることもない。恨まれたからといって、だからなんだ」

 手として具現化している幽霊や、剣を持って生者の首を刎ねる騎士、生者を撥ね飛ばす幽霊馬車など、触って掴めるかどうかがポイントです。ブギーマンやジェイソンなんかは完全にモンスターですものね。そしてジャパンホラーの幽霊に対抗するかのように、一気に広まったのが”Living Dead”──リビングデッド。恐怖の対象として、たいへん分かりやすい。

 日本では無形の『幽霊文化』。対照的に、海外では有形の『リビングデッド文化』なのです。

■まるで「小公女セーラ」のような少女の幽霊話

 次に、ホラーとSFとファンタジーとの違いについて。どれも現実世界とは離れた世界観を持つので、よく比較されます。

 怪物と出遭って、逃げるのがホラー。捕まえて解剖するのがSF。友だちになって、お茶するのがファンタジー。

 分かりやすいですね。ところが広義のホラーでは、モチーフが幽霊だとホラージャンルに入ることが多々あります。

 アーサー・キラ=クーチ著『一対の手──ある老嬢の怪談──』(※創元推理文庫『恐怖の愉しみ・下巻』収録)は、ホラーに対する私の認識を改めさせた作品。

 主人公が人里離れた家を借りて住んでからしばらくして、屋内で奇妙なことが起きることに気がついた。それは女の子の幽霊だった。7歳のときに病気で死んでしまったが、家を掃除したり、訪れた幼い子どもの面倒を見てあげようとしたりする、と主人公は家政婦から告げられる──。

 けっして悪いことをしない少女の幽霊です。これは『小公女セーラ』の幽霊だ。そしてクライマックスで待ち受けるのは『世界名作劇場』の一場面かと見紛う感動。

 読み終えて、私はしばらく動けなかった。これがホラーなのか、と自分の意識で消化するのに時間がかかってしまった。

 寂れた一軒家に現れる少女の幽霊。そのシチュエーションから想起するのは恐怖のエピソードである。読み手の想像力から恐怖を湧き上がらせるその手法は、まさしくホラーだ。しかしホラーだからといって、最後まで話のベクトルが恐怖へ向いているわけではない。ときには胸を熱くさせたり、切なくさせたり、心を震わせる話もあるのだと知った。

 ホラーは奥が深くて広い。先へ進むほど底が見えない。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    安青錦は大関昇進も“課題”クリアできず…「手で受けるだけ」の立ち合いに厳しい指摘

  2. 2

    「立花一派」の一網打尽が司法の意志…広がる捜査の手に内部情報漏した兵庫県議2人も戦々恐々

  3. 3

    「コンプラ違反」で一発退場のTOKIO国分太一…ゾロゾロと出てくる“素行の悪さ”

  4. 4

    「ロイヤルファミリー」視聴率回復は《目黒蓮効果》説に異論も…ハリウッドデビューする“めめ”に足りないもの

  5. 5

    国分太一は人権救済求め「窮状」を訴えるが…5億円自宅に土地、推定年収2億円超の“勝ち組セレブ”ぶりも明らかに

  1. 6

    マエケン楽天入り最有力…“本命”だった巨人はフラれて万々歳? OB投手も「獲得失敗がプラスになる」

  2. 7

    今の渋野日向子にはゴルフを遮断し、クラブを持たない休息が必要です

  3. 8

    元プロ野球投手の一場靖弘さん 裏金問題ドン底を経ての今

  4. 9

    米中が手を組み日本は「蚊帳の外」…切れ始めた「高市女性初首相」の賞味期限

  5. 10

    マエケンは「田中将大を反面教師に」…巨人とヤクルトを蹴って楽天入りの深層