対中の理髪店を舞台に描く小さな冒険の物語

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山口守編「パパイヤのある街 台湾日本語文学アンソロジー」

 とぎれることなく続く、静かな台湾ブーム。来月下旬に公開予定の「本日公休」は台湾映画好きにはむろん、これまでなじみのない人にもわかりやすい入門編になる一作だろう。

 台湾第2の都市・台中の町はずれにある理髪店。店主は既になく、残った妻が店を守る。客も常連の老人ばかりだ。そんな市井の片隅に起こる小さな冒険の物語。ある日、女店主は昔なじみの客が認知症で店に来られないと聞く。「長年のごひいきの恩返しをしなくちゃ」という彼女。美容師になった娘の制止を振り切って、郊外に住む客のもとにひとり車を走らせる……。

 温和なユーモアと年老いることの哀しみが台湾映画らしい静かな口調で描かれるが、面白いのは製作の裏話に日本との縁がちらつくこと。

 監督の傅天余(フー・ティエンユー)は小説家から脚本家に転じて監督になった女性だが、大学時代は日本文学専攻。また主演の陸小芬(ルー・シャオフェン)の代表作は満州育ちの日本女性を演じた「客途秋恨」だ。中国人の父と日本人の母を持つ許鞍華(アン・ホイ)監督が、日本人の実母との葛藤を主題にした哀切な物語だった。

 日台の縁は歴史的に深いが、いま読書界で注目されているのが日本統治時代の台湾で書かれた「日本語文学」。山口守編「パパイヤのある街 台湾日本語文学アンソロジー」(皓星社 2970円)はその選集だ。

 日清戦争で台湾を植民地にした日本は現地で日本語教育を開始。かつて日本語の達者な年配者が台湾に多かったのはそのなごりだが、この選集と解説を読むと表面的な親日イメージの陰に横たわっていた植民地の屈託がうかがわれる。表題作は戦前のエリート雑誌「改造」の佳作推薦賞を受けた唯一の台湾人作家の作品。中国とも香港とも違う台湾ならではの翳りを知る入門編ともいえよう。 <生井英考>

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