「哀しいカフェのバラード」カーソン・マッカラーズ著 村上春樹訳 山本容子イラスト

公開日: 更新日:

「哀しいカフェのバラード」カーソン・マッカラーズ著 村上春樹訳 山本容子イラスト

 バラード(バラッド)は、時事的な内容やゴシップなどを路上で大衆に向けて歌い知らせるブロードサイド・バラッドをもとにする歌謡ジャンルで、独特の形式を持つ。「心は孤独な狩人」などで知られるカーソン・マッカラーズの本作品にもこの形式が踏襲されている。

 冒頭、アメリカ南部のうらぶれた町の描写から始まる。町の中心にある一番大きな建物はそっくり板で塞がれ、今にも崩れ落ちそう。それはかつて町にあった唯一のカフェだったことが知らされ、そこから時間が遡りカフェの成り立ちが語られる。

 店の経営者はミス・アミーリア。短い黒髪で長身、骨格と筋肉は男並み、いつもオーバーオールにゴム長靴という格好で、日焼けした顔にはとげとげしい趣がある。一帯では一番の金持ちで、訴訟好きという欠点とわずか10日間で終わった結婚生活を別にすれば堅実な生活を送っていた。

 30歳の春、ミス・アミーリアのいとこだと称する身長120センチほどの背中の曲がった男ライモンが現れ、彼女の生活を一変させる。人付き合いの嫌いなミス・アミーリアのことだからすぐにでも追い出されるだろうとの大方の予想を裏切り、ライモンはミス・アミーリアと一緒に暮らし始める。ライモンの不思議な人懐こさは町の人たちを呼び寄せ、ミス・アミーリアの店は人々が憩いを求めてやってくるカフェになっていく。

 しかしそこへ、ミス・アミーリアのかつての夫、マーヴィン・メイシーが登場することで事態は急変。ミス・アミーリア、ライモン、メイシーの奇妙な三角関係がカフェを崩壊へと導いていく──。

 物語には山本容子の銅版画32点が多彩な形で挿入されている。それまで暖色だった絵の色合いが町には稀有な雪が降った情景からは寒色に転じるなど、マッカラーズ、村上、山本の3人が一体となってバラードを奏でているような独特のリズムが生み出されている。〈狸〉

(新潮社 2420円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「左膝の半月板が割れ…」横綱・豊昇龍にまさかのアクシデントで稽古中止

  2. 2

    松山千春がNHK紅白を「エコひいき」とバッサリ!歌手の“持ち時間”に求めた「平等」の正当性を考える

  3. 3

    巨人オーナーから“至上命令” 阿部監督が背負う「坂本勇人2世育成&抜擢」の重い十字架

  4. 4

    高市政権が抱える統一教会“爆弾”の破壊力 文春入手の3200ページ内部文書には自民議員ズラリ

  5. 5

    前橋市長選で予想外バトルに…小川晶前市長を山本一太群馬県知事がブログでネチネチ陰湿攻撃のナゼ

  1. 6

    チンピラ維新の「国保逃れ」炎上やまず“ウヤムヤ作戦”も頓挫不可避 野党が追及へ手ぐすねで包囲網

  2. 7

    阿部監督のせい?巨人「マエケン取り失敗」の深層 その独善的な振舞いは筒抜けだった

  3. 8

    バタバタNHK紅白 高視聴率でも今田美桜、有吉弘行らMC陣は負担増「出演者個々の頑張りに支えられた」

  4. 9

    菊池風磨のカウコン演出に不満噴出 SNS解禁でSTARTO社の課題はタレントのメンタルケアに

  5. 10

    ロッテ前監督・吉井理人氏が大谷翔平を語る「アレを直せば、もっと良く、170kmくらい投げられる」