「牛乳から世界がかわる」小林国之著

公開日: 更新日:

「牛乳から世界がかわる」小林国之著

 コロナ禍の2021年の年末、牛乳の廃棄が5000トンという過去最大規模に及ぶ可能性が示されて話題となった。一方でしばしばバター不足が懸念されている。ならば余った牛乳をバターに回せばいいといった声も上がったが、本書を読むと、事はそう単純なものではないということがわかる。

 酪農家が毎日搾乳する生乳は常温では変化しやすく、液体のために輸送が難しい。牛という生き物が相手なので季節によって品質や量が変化し需要も変動する。また日本はほかの国々に比して飲用乳の割合が多く価格も高い。対してバターやチーズなどの乳製品は安価な輸入品に対抗するため価格を抑えられているので、バターへの乗り換えは容易ではない。加えて酪農家が年々減少しており牛乳の生産量は減っていた。それでも北海道を中心とする酪農家たちの踏ん張りで増産を図っていたところにコロナ禍に遭遇。需要減となり、余剰乳が発生したのだ。

 そうした事情とは関わりなく牛たちは毎日乳を出し、酪農家はそれに対応していかなくてはならない。また糞尿の処理にもコストがかかり、輸入が多くを占める飼料の価格高騰という波も押し寄せてくる。酪農家にとってはかなり厳しい現実だが、本書には独自の手法で新しい酪農に取り組んでいる個性的な北海道の酪農家が紹介されている。ロボット搾乳機を取り入れ、牛の能力を最大限に引き出す美瑛町のファーム。牧草地での放牧で循環型農業を目指す枝幸町の牧場。生乳、チーズ作りなどの工程を一体化し、「牛1頭で成り立つ酪農」を実践する興部町のファーム。そして彼らをサポートするJAけねべつ(計根別農業協同組合)など、日本の酪農の未来に向けての抱負が語られている。

 糞尿やゲップ(メタンガス)といった環境への負荷をいかにプラスに転じるかなど、自然を相手にする他産業にも示唆に富む情報が満載。 〈狸〉

(農山漁村文化協会 1760円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ吉井監督が佐々木朗希、ローテ再編構想を語る「今となっては彼に思うところはないけども…」

  2. 2

    20代女子の「ホテル暮らし」1年間の支出報告…賃貸の家賃と比較してどうなった?

  3. 3

    【独自】フジテレビ“セクハラ横行”のヤバイ実態が社内調査で判明…「性的関係迫る」16%

  4. 4

    「フジ日枝案件」と物議、小池都知事肝いりの巨大噴水が“汚水”散布危機…大腸菌数が基準の最大27倍!

  5. 5

    “ホテル暮らし歴半年”20代女子はどう断捨離した? 家財道具はスーツケース2個分

  1. 6

    「ホテルで1人暮らし」意外なルールとトラブル 部屋に彼氏が遊びに来てもOKなの?

  2. 7

    TKO木下隆行が性加害を正式謝罪も…“ペットボトルキャラで復活”を後押ししてきたテレビ局の異常

  3. 8

    「高額療養費」負担引き上げ、患者の“治療諦め”で医療費2270億円削減…厚労省のトンデモ試算にSNS大炎上

  4. 9

    フジテレビに「女優を預けられない」大手プロが出演拒否…中居正広の女性トラブルで“蜜月関係”終わりの動き

  5. 10

    松たか子と"18歳差共演"SixTONES松村北斗の評価爆騰がり 映画『ファーストキス 1ST KISS』興収14億円予想のヒット