「秘仏の扉」永井紗耶子著

公開日: 更新日:

「秘仏の扉」永井紗耶子著

 聖徳太子をモデルに作られたという法隆寺夢殿の救世観音像は、鎌倉時代以降200年もの間「絶対秘仏」とされ、ほとんど人目にさらされたことがなかった。その扉を開けば仏罰が下ると信じられていたからだ。

 ところが、そんな秘仏の扉を開けさせた男たちがいた。岡倉覚三とお雇い外国人のアーネスト・フェノロサ、実業家のビゲローだ。彼らは、無理を言って一度開けさせただけでなく、さらには宝物調査団を結成し、記録調査と称して写真を撮影するという。撮影を命じられた写真家の小川一真、臨時全国宝物取調局委員長の九鬼隆一、彫刻家の加納鉄哉をはじめ、内閣府官報局や社寺局の役人、さらには新聞記者など十余人の期待のまなざしの中、ついにその重い扉が開かれた……。

 鎖国が解かれた明治時代、神仏分離と廃仏毀釈の流れの中で、立ち行かなくなる寸前まで追い詰められた法隆寺は、秘仏を外に向かって開くことでその歴史を守った。列強の国々に一刻も早く追いつこうとするあまり自国文化を捨てかねない風潮に対し、その価値を改めて世界に知らしめた人々の奮闘を熱く描いている。 (文藝春秋 1760円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    安青錦の大関昇進めぐり「賛成」「反対」真っ二つ…苦手の横綱・大の里に善戦したと思いきや

  2. 2

    長嶋一茂は“バカ息子落書き騒動”を自虐ネタに解禁も…江角マキコはいま何を? 第一線復帰は?

  3. 3

    トリプル安で評価一変「サナエノリスク」に…為替への口先介入も一時しのぎ、“日本売り”は止まらない

  4. 4

    "お騒がせ元女優"江角マキコさんが長女とTikTokに登場 20歳のタイミングは芸能界デビューの布石か

  5. 5

    【独自】江角マキコが名門校との"ドロ沼訴訟"に勝訴していた!「『江角は悪』の印象操作を感じた」と本人激白

  1. 6

    今田美桜に襲い掛かった「3億円トラブル」報道で“CM女王”消滅…女優業へのダメージも避けられず

  2. 7

    実は失言じゃなかった? 「おじいさんにトドメ」発言のtimelesz篠塚大輝に集まった意外な賛辞

  3. 8

    99年シーズン途中で極度の不振…典型的ゴマすりコーチとの闘争

  4. 9

    27年度前期朝ドラ「巡るスワン」ヒロインに森田望智 役作りで腋毛を生やし…体当たりの演技の評判と恋の噂

  5. 10

    今田美桜が"あんぱん疲れ"で目黒蓮の二の舞いになる懸念…超過酷な朝ドラヒロインのスケジュール