「他人屋のゆうれい」王谷晶著

公開日: 更新日:

「他人屋のゆうれい」王谷晶著

 派遣でオペレーターの仕事をしている南大夢は、ある日、兄から、春夫おじさんの遺品整理を押し付けられた。仕方なく都内・下町にある「メゾン・ド・ミル」の404号室を訪ねたところ、大家の半ば強引な勧めもあって、大夢が居抜きで暮らすことに。伯父は404号室で便利屋「他人屋」を営んでいたらしかった。

 ある日、大夢は部屋で1冊のノートを発見する。そこには業務日誌のほか、「幽霊に上着」「幽霊に靴下」などとメモがされていた。さらに向かいの部屋で本屋を営む店主・小石川に「部屋に“幽霊さん”はまだ出るのか」と聞かれる。その夜、大夢はベッドの足元に黒い人影を見てしまう。「ひっ!」。以来、幽霊は頻繁に現れ、飯を食えばトイレもし、あげくには筆談まで始まり……。

 人と関わらないようにして生きてきた大夢が、404号室を出入りする幽霊の正体を追ううちに人とのつながりが生まれ、自分を取り戻していく現代版長屋噺。

 かつて404号室で何があったのか、春夫おじさんはどんな人だったのか。大夢に関わる人々のエピソードを通して、痛みや弱さを持ったまま進むのが生活なのだ、と励まされる。

 (朝日新聞出版 1980円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    尽きぬ破天荒エピソード…それでもショーケンが愛された訳

  2. 2

    河合優実が日本アカデミー賞「最優秀主演女優賞」の舞台裏…石原さとみと激しいガチンコ勝負

  3. 3

    教諭体制は日本一も…“国公立の雄”筑波大付属小の落とし穴

  4. 4

    「中居正広問題」ではノーダメージも、夫は吉本芸人…フジ山﨑夕貴アナの育休復帰は正解か

  5. 5

    やす子は人間不信に…友人から借金を頼まれたら「さっさと貸して縁を切る」という新発想

  1. 6

    男性キャディーが人気女子プロ3人と壮絶不倫!文春砲炸裂で関係者は「さらなる写真流出」に戦々恐々

  2. 7

    「石破降ろし」不発の裏でうごめく与野党の身勝手な思惑…野望ついえた安倍一派は“特大ブーメラン”に真っ青

  3. 8

    愛子さまに、佳子さまご結婚後も皇室に残る案が進展も…皇族数減少の課題にご本人の意思は?

  4. 9

    自信なくされたら困るから? 巨人・田中将大がカブス戦登板「緊急回避」の裏側

  5. 10

    数年前から“終活”も 萩原健一さんの知られざる闘病生活8年