「オリオンは静かに詠う」村崎なぎこ著

公開日: 更新日:

「オリオンは静かに詠う」村崎なぎこ著

 木花咲季は宇都宮の若草ろう学校に通う高校1年生。ある日、学校帰りに立ち寄った「おひとりさま専用カフェ」で百人一首に出合い、歌の情景が目の前に広がっていくさまに魅せられる。そんな咲季を見た店主ママンに競技かるたを勧められ、指文字や手話通訳を介して札を取る面白さに目覚めていく。そこに普通学校に通うママンの姪カナが現れ、共に競技かるたを目指すことに。

 やがて自信をつけた咲季は、担任の映美に読み手の手話通訳を頼みサークルの大会に参加し、手ごたえを感じる。しかし大会直後、映美から次のサポートを断られてしまう。

 百人一首を軸に、耳の聴こえない咲季、両親の日常を手話で支えるコーダのカナ、親が聴こえない妹にかかりきりで寂しさに耐えてきたママン、事故で親友が聴覚障害になった過去を持つ映美まで緩やかにつながる4人の物語を描く青春小説。聴覚に障害がある人がどのようにかるたを取るのかも興味深いが、咲季が「競技かるた」の扉を開けたことで新しい世界を知ったように、それぞれが<聴こえる世界><聴こえない世界>の狭間で悩み、葛藤しつつどう乗り越えてきたかが読みどころだ。未知の世界へ一歩踏み出す勇気に胸が熱くなる。 (小学館 1870円)



【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    米倉涼子“自宅ガサ入れ”報道の波紋と今後…直後にヨーロッパに渡航、帰国後はイベントを次々キャンセル

  2. 2

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  3. 3

    彬子さま三笠宮家“新当主”で…麻生太郎氏が気を揉む実妹・信子さま「母娘の断絶」と「女性宮家問題」

  4. 4

    アッと驚く自公「連立解消」…突っぱねた高市自民も離脱する斉藤公明も勝算なしの結末

  5. 5

    ヤクルト池山新監督の「意外な評判」 二軍を率いて最下位、その手腕を不安視する声が少なくないが…

  1. 6

    新型コロナワクチン接種後の健康被害の真実を探るドキュメンタリー映画「ヒポクラテスの盲点」を製作した大西隼監督に聞いた

  2. 7

    違法薬物で逮捕された元NHKアナ塚本堅一さんは、依存症予防教育アドバイザーとして再出発していた

  3. 8

    大麻所持の清水尋也、保釈後も広がる波紋…水面下で進む"芋づる式逮捕"に芸能界は戦々恐々

  4. 9

    “行間”を深読みできない人が急増中…「無言の帰宅」の意味、なぜ分からないのか

  5. 10

    万博協会も大阪府も元請けも「詐欺師」…パビリオン工事費未払い被害者が実名告発