著者のコラム一覧
増田俊也小説家

1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。

ドーベルマン刑事」(全29巻)武論尊原作 平松伸二漫画

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「ドーベルマン刑事」(全29巻)武論尊原作 平松伸二漫画

 街中に得体の知れない雑種(当時の名称、現在ではミックス犬という名前が定着)の野良犬が大量にうろついていた時代だった。

 飼い犬にもまだ純血種が少なく、日本犬か洋犬かすらわからぬ混ざりっけだらけの犬が軒先に鎖でつながれていた時代である。そんな時代にこの作品の主人公・加納錠治の愛称は“ドーベルマン”である。

 日本人の多くは見たことも聞いたこともない犬種であった。強いというイメージだけなら秋田犬でも土佐犬でもいいはずだがドーベルマンなのである。

 いったいドーベルマンとはどんな犬なのか。原作者武論尊は巧みな演出でその怖さを書き、作画者平松伸二はそれに応じて凄まじい画で応えた。しかししょせんは鮮明な写真ではなく手描きのイラストだ。

 私たち田舎の小学生は図書館へ自転車を走らせて図鑑やら何やらを広げて調べた。そして写真を見て驚愕したものだ。ビロードのような艶のある黒や茶の短毛。尖った耳に短い尾。スリムな体。ドイツで警備犬としてつくられたこの犬はいかにも怖そうだ。その優れた資質からすぐに軍用犬や警察犬となり優秀な働きをするようになる。警戒心が強くて獰猛性もあるので、その部分を強調して武論尊は描いた。

「最強の犬種はドーベルマンだ」

 飼ったことがないばかりか実物を見たことすらないのに我が知り顔で自慢する小中学の男子生徒がこのときから増えたものだ。武論尊はそのドーベルマンのイメージをさらに飛躍させて主人公のキャラをつくりあげた。犬種の毛色と毛質を連想させる革の上下に身をつつみ、「外道に人権などない」と言って44マグナム弾を凶悪犯たちにぶっ放す。愛車はハーレーダビッドソンでコーヒーはブラックしか飲まない。世にあるあらゆる“かっこいい”を煮染めてつくったような刑事だ。

 しかし格好いいのは確かだが、それが行きすぎて現在ならば笑いの対象にもなりかねない。それを全29巻貫いて人気作として仕上げたのは、原作者および作画者の卓越した能力による。

 最後にこの犬種の名誉のために言っておくが、今でも「ドーベルマンは怖いぞ」などと語る大人男子がいるが、じつは外敵以外には従順で優しい犬種だという。

集英社 品切れ重版未定(kindle版 ゴマブックス545円)

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