「750ライダー」(全50巻)石井いさみ作 秋田書店 品切れ重版未定
「750ライダー」(全50巻)石井いさみ作 秋田書店 品切れ重版未定
かつて司法試験の合格率が3%で日本最難関の資格試験だと言われていたことがある。ところがそのころナナハンに乗るには合格率1%のバイク免許限定解除試験に合格しなければならなかった。ナナハンは弁護士以上に“選ばれし者”の象徴だったのである。
そんな時代、1975年に連載が始まったのが本作「750ライダー」である。750にはもちろん《ナナハン》のルビが振られていた。つまり読みはナナハンライダーであった。
ここで私のいつもの理屈を出す。漫画を知らない人は漫画をなめすぎているからだ。昭和から平成にかけ、日本においていかに漫画が社会的パワーを持っていたかこの作品ほど私に印象づけたものはなかった。ナナハンに人気があったから本作が売れたのではない。ナナハンの名前が広がっていたから本作が売れたのでもない。本作がきっかけでナナハンの名前が広がり、ナナハン人気が高まってCB750FOURは売れたのである。
数字を挙げればすぐにわかる。「750ライダー」は2000万部売れたが、CB750FOURは世界全体でも数十万台程度しか売れてないのだ。
週刊少年チャンピオンで連載が始まったのは1975年。このころバイクといえば郵便配達員などが乗るホンダスーパーカブくらいしか見る機会がなく、私たち少年(私は当時10歳)がバイクがどういうものなのか知ったのは、本作のバイクうんちくを逐一隅々まで読んで頭に叩き込んでいったからである。少年少女の憧れを形成せしむのは漫画がもっとも得意とするところであった。
ストーリーはそれほど奇抜なものではなく、主人公は爽やかでヒロインは清純、感動あり涙あり恋もありの青春王道を行く爽やかなものだった。
しかしだ。小学生にとっては色気満載の作品でもあった。私たちの世代にとってこの漫画は高校生という汗くさいお兄さんお姉さんの生活をのぞき見る感覚があった。ページを開くたびになぜかドキドキした。これが私たちにこの作品が刺さった最も大きな理由かもしれない。
60歳近くなった今でもナナハンに乗る高校生くらいの青年を見ると主人公の早川光を思い出し、これから「ピットイン」のような喫茶店へ行くのかなと思ったりもする。それくらい空気感が心に残っている作品だ。(ゴマブックス kindle版561円~、ペーパーバック990円)