著者のコラム一覧
増田俊也小説家

1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。

「750ライダー」(全50巻)石井いさみ作 秋田書店 品切れ重版未定

公開日: 更新日:

「750ライダー」(全50巻)石井いさみ作 秋田書店 品切れ重版未定

 かつて司法試験の合格率が3%で日本最難関の資格試験だと言われていたことがある。ところがそのころナナハンに乗るには合格率1%のバイク免許限定解除試験に合格しなければならなかった。ナナハンは弁護士以上に“選ばれし者”の象徴だったのである。

 そんな時代、1975年に連載が始まったのが本作「750ライダー」である。750にはもちろん《ナナハン》のルビが振られていた。つまり読みはナナハンライダーであった。

 ここで私のいつもの理屈を出す。漫画を知らない人は漫画をなめすぎているからだ。昭和から平成にかけ、日本においていかに漫画が社会的パワーを持っていたかこの作品ほど私に印象づけたものはなかった。ナナハンに人気があったから本作が売れたのではない。ナナハンの名前が広がっていたから本作が売れたのでもない。本作がきっかけでナナハンの名前が広がり、ナナハン人気が高まってCB750FOURは売れたのである。

 数字を挙げればすぐにわかる。「750ライダー」は2000万部売れたが、CB750FOURは世界全体でも数十万台程度しか売れてないのだ。

 週刊少年チャンピオンで連載が始まったのは1975年。このころバイクといえば郵便配達員などが乗るホンダスーパーカブくらいしか見る機会がなく、私たち少年(私は当時10歳)がバイクがどういうものなのか知ったのは、本作のバイクうんちくを逐一隅々まで読んで頭に叩き込んでいったからである。少年少女の憧れを形成せしむのは漫画がもっとも得意とするところであった。

 ストーリーはそれほど奇抜なものではなく、主人公は爽やかでヒロインは清純、感動あり涙あり恋もありの青春王道を行く爽やかなものだった。

 しかしだ。小学生にとっては色気満載の作品でもあった。私たちの世代にとってこの漫画は高校生という汗くさいお兄さんお姉さんの生活をのぞき見る感覚があった。ページを開くたびになぜかドキドキした。これが私たちにこの作品が刺さった最も大きな理由かもしれない。

 60歳近くなった今でもナナハンに乗る高校生くらいの青年を見ると主人公の早川光を思い出し、これから「ピットイン」のような喫茶店へ行くのかなと思ったりもする。それくらい空気感が心に残っている作品だ。(ゴマブックス kindle版561円~、ペーパーバック990円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日本ハム伊藤大海が受けた甚大被害 WBC「本当の戦犯」は侍ジャパンのベンチだった!

  2. 2

    世界陸上マラソンで金メダル谷口浩美さんは年金もらい、炊事洗濯の私生活。通学路の旗振り当番も日課に

  3. 3

    高市首相が自衛隊派遣めぐり安倍側近と壮絶バトル→「クビ切り宣言」の恐るべき暴走ぶり “粛清連発”も画策か

  4. 4

    WBC惨敗は必然だった!井端監督の傲慢姿勢が招いたブルペン崩壊【総集編】

  5. 5

    渋野日向子が米ツアー「出場かなわず」都落ちも…国内ツアーもまったく期待できない残念データ

  1. 6

    暴力事件を招いた九州国際大付野球部の“ユルフン”体質 プロ球団は謹慎部員を「リストから抹消」か

  2. 7

    駐車トラブルの柏原崇 畑野浩子と離婚

  3. 8

    元プロ野球選手の九州国際大付・楠城祐介監督に聞いた「給料」「世襲の損得」「指導法」

  4. 9

    元横綱照ノ富士「暴行事件」の一因に“大嫌いな白鵬” 2人の壮絶因縁に注目集まる

  5. 10

    江角マキコさん「落書き騒動の真相」を初めて語る…人気YouTuberの配信に抗議