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井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

暮らしの思想(西尾久)ブックカフェも兼ねた本と花が融合する白い空間

公開日: 更新日:

 肉屋、魚屋、果物屋などが点在する「小台銀座」。銭湯の隣に、広い窓から、本が並ぶ白い空間が見える8坪ほどの店があった。ドアを開けた途端、空気が変わった。環境音楽が静かに流れ、中央に配された三角の大テーブルの上に季節の花々が。時間を一拍遅らせるような気配をまとっていたからだ。

 迎えてくれたのは、ブックディレクターの中村碧宙さん(26)と、華道家の増渕若雨さん(28)。「本を通して空間をつくる」と、「花を使って空間をつくる」。異なる専門が融合したそうだが、「ブックディレクターって?」と私。

「幅允孝さんが代表の有限会社バッハで、公共図書館や病院などから依頼を受けて本棚をつくる仕事をしているんです」

 そういうことでしたか。じゃあ、ダブルワークでこの店を?

「ええ。大学・大学院の専攻は建築で、その先輩後輩7人ほどと、仕事とは別に5年前からこの商店街で活動していて。いつか本屋をやりたいと思っていましたが、去年、空き店舗が出て、5年か10年早まった感じです」

ブックディレクターが選書した新刊600冊を8つのテーマごとに陳列

 まる1年かけて準備し、今年4月にオープンした。両壁に3段ずつの棚に、絞り込んでます、と言わずもがなの新刊本が600冊ほど。8テーマに分けられ、「声と沈黙」テーマの棚で「ヒップホップの詩人たち」「東京の生活史」「言葉をもみほぐす」、「物語ること」テーマの棚で多和田葉子の数々や「本とはたらく」「長い読書」がぱっと目に入る。テーマに本を押し込むのでなく、本から「そういえば」とテーマにつながる感じがして、さすがにうまいな、選書。

暮らしの思想」という店名は、ドキュメンタリー映画監督・佐藤真の特集上映会の名前から。「思想って、堅苦しいものじゃなくて、誰もがすでに持っている、地に足がついたものだと思う」という話も、縷々聞いて共感。

「そういうことに気づくきっかけになる本を置こうと」

 ブックカフェでもある。フルーティーかつ日本茶風味も入っているスペシャリティーコーヒーを「すごい」といただきながら、この店にいる時間を楽しむ。中村さんは、佐藤真監督の哲学に赤坂憲雄ら32人が追った「日常と不在を見つめて」を開いてくれ、マレーシア人の人類学者がパートナーを若くして亡くした喪失感からきのこによって再生していくエッセーという「きのこのなぐさめ」についても語ってくれた。

◆荒川区西尾久4-12-34/都電荒川線小台停留所から徒歩5分、JR宇都宮線尾久駅から徒歩8分、JR山手線田端駅から徒歩15分/正午~午後8時(金・土曜は午後10時まで)、月・火曜休み(祝日は営業)

ウチが注目している本

「盆栽ごよみ365日」塩津植物研究所著

 奈良県橿原市で、種木から盆栽への仕上げまで一貫して行っている、塩津丈洋、久実子夫妻の著。「盆栽は、一つの器の中に生態系が存在しているんですよね。意外にもカジュアルに楽しめる。この本には365個の盆栽が登場します。一つ一つに対して、詩のような散文のような日記のようなテキストが入っている。365個の盆栽をめぐる物語──『盆栽譚』なんです。6月に出版されて、私はすぐから注目しています」

(誠文堂新光社 2420円)

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