古内一絵(作家) 酢酸に少し化学式を足すと甘い毒になる
6月×日 昨年復刊した有吉佐和子著「げいしゃわるつ・いたりあの」(中央公論新社 1100円)があまりに面白かったので、今回も復刊長編「海暗」(河出書房新社 1210円)をチョイスしたところ、これがまた凄すぎた。時は1964年。伊豆七島の小さな島、御蔵島が突如米軍の射爆場に内定する。島の自然破壊は? 補償金の有無は? この計画により、長閑だが決して便利とは言えない離島に暮らす人々の心は千々に乱れる。その中で、ただ1人動じず島を守ろうとするのが、御蔵島をこよなく愛する主人公、80代の栗山ヨウ、通称オオヨン婆だ。
憲法で戦争を放棄した日本に、なぜ米軍の射爆場ができるのか。
連合軍に負けたのに、なぜ米とだけ安保条約を結んだのか。
敵から守るというが、敵とはどこの国のことか。
最近、SNSでは「右か左か」ばかりがかまびすしいが、このオオヨン婆の率直な問いに答えられる人が一体どれだけいるだろう。この作品が60年近く前に書かれていることに驚くと同時に、オオヨン婆の訴えが未だにどこにも届いていないことに愕然とする。
オオヨン婆、私たち、もっと頑張らないと。
6月×日 これも昨年読んだ多田多恵子ほか監修「眠れない日にそっとめくる夜の図鑑」(三才ブックス 2090円)がとても良かったので、同じシリーズで手に取ったガリレオ工房監修「小さな化学式の図鑑」(三才ブックス 2090円)。化学式と言えば、水兵リーベ僕の船……でお馴染みだが、19世紀初頭のスウェーデンの科学者ベルセリウスがこの式を提唱したことによって、それまで複雑な図でしか表すことのできなかった物質のほとんどが、簡略化して表記できるようになったのだそうだ。生活、食品、自然、産業、医療と、章立てで身近な物質の化学式が紹介されていく。特に興味深かったのが、第2章の食品。酢酸は「お酢」の酸味のもとだが少し化学式を足すと酢酸鉛という毒になる。但しこれが甘味を伴うので、古代ローマでは鉛の杯でワインを飲むのが流行したという。少しの甘味が命取り。それって現代にも通用する教訓かもしれない。



















