「南方熊楠、動物を語る。 『十二支考』のワンダーランドへ」松居竜五著
「南方熊楠、動物を語る。 『十二支考』のワンダーランドへ」松居竜五著
南方熊楠には博覧強記という言葉が枕詞のように冠せられる。幼少の頃から「本草綱目」や「和漢三才図会」など漢文書籍を読みこなし、飛び抜けた記憶力で「古今図書集成」など数百~数千巻以上の事典の内容を頭に入れたという。また英国では大英図書館に通い詰め、収蔵されている古今東西の稀覯書物を読みふけり「ネイチャー」などの学術誌に論文を投稿していたことは有名だ。英語の他、仏、伊、独、西語なども読みこなすという、まさに博覧強記を絵に描いたような人物だ。
帰国後の熊楠は、キノコや粘菌類、昆虫などの研究に没頭、一方で神社合祀反対運動を精力的に展開するなどエコロジストとして先駆的な役割を果たした。その熊楠が自身の学問・思想の一つの集大成として執筆したのが「十二支考」だ。本書は、「十二支考」の一部を現代語訳して読みやすい形でその独自の世界を味わおうというもの。虎から始まり、竜、ウサギ、ヘビ、馬、サル、イノシシ、ヒツジ、ニワトリ、犬、ネズミまで、現代語訳の合間に解説を付しながら紹介していく。最初の「虎」は、サンスクリット語、タミール語、アラビア語、英語等々、各地域での虎の呼称を紹介するところから始まり、名前に対する熊楠のこだわりを示している。「竜」は、この空想上の動物がどのようにして生まれてきたのかを各種文献を駆使しながらその正体に迫っていくあたりは民俗学、人類学に精通した熊楠の面目躍如たるところ。
ただし十二支というのに登場する動物は11で、最後の「牛」は書かれなかった。ところが近年「牛」に関するアイデアを記したメモが発見され、著者らはAIにこれを解析させて、書かれるはずだった内容の再現を試みた。その結果、そつはないもののあまり面白くないものだった。そこには独特の寄り道や、過剰ともいえる自らの体験に基づく感想が登場しないからだ。やはり南方熊楠は南方熊楠でしかないのだ。 <狸>
(岩波書店 2970円)



















