「洪水礼讃 環境飼い慣らしの人類史」ジェームズ・C・スコット著 立木勝訳│「洪水」を広い視野から考察
「洪水礼讃 環境飼い慣らしの人類史」ジェームズ・C・スコット著 立木勝訳
今夏は各地で水害が発生し、中国・ネパール国境地帯でも大規模な洪水被害が起きた。そうした折に「洪水礼讃」などというのは大いに顰蹙を買うところだ。しかし、川とは何かという根源的な問いを通して人間と川の関係、ひいては「洪水」というものを広い視野から考察している本書を読むと、このタイトルの意味するところが明らかになってくる。
川といってわれわれが思い浮かべるのは、地図に描かれているような1本の線のようなイメージだ。しかし、実際の川はそのような一定の流路を維持しているわけではなく、一定程度の間隔で洪水をくり返し、その姿を大きく変えている。そこには水の流れだけでなく、シルト(細粒土層)、砂、粘土、砂利などが広がり、そこを生息地とするさまざまな生物(藻類、水生植物、魚類、貝類、亀類、鳥類、両生類など)がいる。そうした流域全体を含めて考えなければ、川というものを捉えることはできない。
人間による介入で不自然に規制されていないかぎり、どの川も洪水は自然なサイクルの一部であり、定期的な洪水によって川に隣接する氾濫原に浸水する。この定期的な浸水こそが、川に依存する水生および河川敷のあらゆる生命体の前提条件となっているのだ。例えば、20世紀に入って半世紀の間に83%も漁獲量が減少していたミシシッピ川流域では、1993年の大洪水後には新記録を更新した。この漁獲量の増加という「洪水パルス・アドバンテージ」は、熱帯、温帯に限らず、どの川でも示されている。
人間はこれまで自らの利益のために「流域の森林を破壊し、多様性に満ちた原生林を一年生の根の浅い作物や牧草に置き換え、川を直線化して蛇行をなくす」ことなどをしてきた。
著者は、こうしたアントロポセントリズム(人間中心主義)に強い警鐘を鳴らす。これまでにない新たな視点によって、人間と自然の問題を考えさせる一冊。<狸>
(みすず書房3520円)



















