著者のコラム一覧
坂爪真吾

「新しい性の公共」を目指し、重度身体障害者への射精介助サービスや各種討論会を開く一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。著書に「男子の貞操」(ちくま新書)、「はじめての不倫学」(光文社新書)など。

マイノリティーの世界を描く“レズ風俗”起業物語

公開日: 更新日:

「すべての女性にはレズ風俗が必要なのかもしれない。」 御坊著/WAVE出版1500円+税

「すべての女性にはレズ風俗が必要なのかもしれない」。人を食ったようなタイトルの本だが、今の社会に必要とされているエッセンスが詰まった一冊だ。

 著者は1981年生まれの男性。25歳で独立してレズ風俗店を立ち上げ、さまざまなトラブルや批判の嵐、経済的な困窮状態を乗り越えて、10年もの年月をかけて営業を軌道に乗せる。

 面白いのは、著者自身は同性愛者でも両性愛者でもなく、あくまでノーマルの男性であるということだ。そのこと自体をLGBTの活動団体から批判された経験も描かれている。

 異性愛者の男性というマジョリティーの立場、そして経営者という立場から客観的にレズ風俗というマイノリティーの世界を描いているため、予備知識のない読者でも抵抗なく入り込めるはずだ。

 近寄りがたい異世界に思える空間に、20代の若い男性が乗り込んで、艱難辛苦を乗り越えながら人口に膾炙させていく……という流れは、単なる風俗店の起業物語としてだけでなく、社会化されていない業態を社会化していく挑戦の記録としても読める。

 レズ風俗というと理解しがたい特殊な世界のように思えるかもしれないが、その中で起こっていることやトラブルの内容は、実際は男性向け風俗とほぼ同じである。キャストの女性たちも、LGBTの社会的地位向上うんぬんといった使命感を持っているわけでもなく、日々淡々と働いているだけだ。

 レズ風俗の起業物語としての本書は、分断社会と呼ばれている現在の中で、私たちが多様性を学ぶための格好の教材だと言える。マイノリティーをないがしろにせず、かといってマイノリティーに憑依して誰かや何かを叩くのではなく、当事者・非当事者・社会の三方が幸せになるための条件を学ぶことができる。

 そう考えると、レズ風俗を必要としているのは、「すべての女性」だけではなく、今の社会に生きる「すべての人」なのかもしれない。

【連載】下半身現代社会学考

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    3年連続MVP大谷翔平は来季も打者に軸足…ドジャースが“投手大谷”を制限せざるを得ない複雑事情

  2. 2

    自民党・麻生副総裁が高市経済政策に「異論」で波紋…“財政省の守護神”が政権の時限爆弾になる恐れ

  3. 3

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  4. 4

    最後はホテル勤務…事故死の奥大介さん“辛酸”舐めた引退後

  5. 5

    片山さつき財務相“苦しい”言い訳再び…「把握」しながら「失念」などありえない

  1. 6

    ドジャースからWBC侍J入りは「打者・大谷翔平」のみか…山本由伸は「慎重に検討」、朗希は“余裕なし”

  2. 7

    名古屋主婦殺人事件「最大のナゾ」 26年間に5000人も聴取…なぜ愛知県警は容疑者の女を疑わなかったのか

  3. 8

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  4. 9

    高市内閣支持率8割に立憲民主党は打つ手なし…いま解散されたら木っ端みじん

  5. 10

    《もう一度警察に行くしかないのか》若林志穂さん怒り収まらず長渕剛に宣戦布告も識者は“時間の壁”を指摘