坂爪真吾
著者のコラム一覧
坂爪真吾

「新しい性の公共」を目指し、重度身体障害者への射精介助サービスや各種討論会を開く一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。著書に「男子の貞操」(ちくま新書)、「はじめての不倫学」(光文社新書)など。

運転免許証1枚で即採用の「最後の砦」

公開日: 更新日:

「デリヘルドライバー」東良美季著 駒草出版/1500円+税

 駅前や繁華街を歩いていると、ホテルの前や路上に止まっている怪しげなワゴンを見かけることがある。ワゴンの中では、丸刈りに黒革のジャケットを着たいかつい男性が、運転席でスマホをいじっている。いわゆる「デリワゴン」=デリヘルで働く女性をホテルまで送迎するための車だ。しばらくすると、ホテルから出てきた女性が小走りで乗車し、ワゴンは何事もなかったかのように発車する。

 夜の世界を支える縁の下の力持ちでありながら、これまで語られることの少なかったデリヘルドライバーの素顔に焦点を当てたのが本書である。

 ドライバーとして、9人の男性たちが登場する。元ヤクザ、ギャル男、闇金、バイオリニストなど多様な個性や職歴の持ち主だが、いずれもさまざまな職を転々として、最後にたどり着いた仕事がデリヘルのドライバーだった、という点は共通している。

 女性にとって、自らの体を使う仕事であるデリヘルは「最後の砦」といわれているが、男性にとっても、運転免許証1枚があれば即日採用になり、過去や経歴を問われないデリヘルドライバーの仕事は「最後の砦」なのかもしれない。

 風俗店の男性スタッフやドライバーという仕事が、ある種の「漂着の浜辺」として、表社会からはじかれた人たちを包摂する場として機能していることがうかがえる。

 本書の特徴は、そんな彼らを突き放すのでも見下すのでもなく、「私たちと同じ現実の中で、額に汗して働く男たち」として捉え、彼らの語りに寄り添いながら、個々の人間的な魅力を描き出している点にある。そうした著者の温かい姿勢が、ありがちな底辺ルポではなく、読み応えのあるヒューマンドラマとして本書を成立させている。

 決して明るい話ばかりではないが、取材対象者の悲惨さだけを強調する貧困ルポに疲れた方には一読をお勧めしたい。真夜中にデリワゴンの助手席に乗りながら、知られざる東京の街並みを駆け抜ける臨場感と疾走感が味わえるはずだ。

【連載】下半身現代社会学考

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

  2. 2
    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

  3. 3
    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

  4. 4
    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

  5. 5
    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

  1. 6
    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

  2. 7
    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産まれてきた

    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産まれてきた

  3. 8
    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

  4. 9
    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

  5. 10
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗