映画「あやしい彼女」の聴きどころは多部未華子の懐メロ

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【大高宏雄「エンタメ最前線」】

 女優というのは、たいしたものだと感心させられた作品が公開中の「あやしい彼女」だ。主演の多部未華子昭和歌謡を歌っていて、その素晴らしい歌声に思わず聴き惚れてしまった。

 韓国映画の大ヒット作「怪しい彼女」のリメーク。73歳の老女があるとき、20歳の若い女性に変身してしまう。多部は20歳の女性を演じていて、精神は老女のまま、昔、なりたかった歌手に挑戦するのだ。

 地域のカラオケ大会でいきなり坂本九の「見上げてごらん夜の星を」を歌い出すシーンに度肝を抜かれる。うまい。教科書的なうまさとは違い、実に情感がこもっていて会場にいる聴衆がクギ付けになる。

 もちろん、映画を見ている観客もとりこになる。多部はこれまでも演技に定評はあったが、歌がこれほどうまいとは知らなかった。それも付け焼き刃の歌唱力ではない。歌の魅力を伝える力を、生来的にもっているかのような歌声なのだった。

 美空ひばりの「真赤な太陽」を戸外で歌うときは美空の動作より動きがいいように見え、ここでも、歌の迫力がにじみ出ていた。スタジオで歌うザ・フォーク・クルセダーズの「悲しくてやりきれない」は哀愁たっぷり。昭和の時空にタイムスリップしたような気分になった。

 映画出演に当たって多部は長い期間、歌の練習をしたという。だが、歌はうまくなっても魂がこもらなければ人々に届かない。昭和の歌が似合う女優・多部未華子。その歌声を聴くために映画館に行っても損はないと思う。

(映画ジャーナリスト)

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