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碓井広義メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。著書に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」、倉本聰との共著「脚本力」ほか。

平和であればこそ…ドラマ「この世界の片隅に」が描く日常

公開日: 更新日:

 ドラマ「この世界の片隅に」(TBS系)の背景は、戦前から敗戦にかけての「戦争の時代」だ。主人公は広島市の郊外で生まれ育った、すず(松本穂香)。普通以上にぼんやりしているが、誰に対しても優しい娘だ。

 昭和19年、すずは呉の海軍に勤める公務員、北條周作(松坂桃李)と結婚した。それからは、早朝に坂を下って井戸の水をくんでくることから始まり、三度の炊事、洗濯、掃除、縫い物、さらに足の悪い義母(伊藤蘭)の世話と、一日中休む間もなく働いている。

 家事の分担や、夫のサポートといった発想のない時代だ。現代から見たら過重労働と思えるかもしれないが、当時の嫁としては当たり前だった。すずもまた、自分が周作や北條の家に必要とされていることを素直に喜んでいる。それがすずの「日常」だったからだ。

 しかし、戦争の進行とともに、そんなささやかな日常も変わってゆく。食糧や日常品が厳しく統制される。兄やその友達が兵隊として召集される。ましてや町の風景をスケッチしていただけで憲兵に引っ張られるなど普通の世の中ではない。

 つまり、ごく当たり前の日常が、当たり前に存在すること自体、平和であればこそなのだと再認識させてくれるのが、このドラマなのだ。中には退屈と感じる視聴者がいるかもしれない。それでも、この夏、見るべき一本であることは確かだ。

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