歌手クミコ×伝説的P酒井政利氏が熱く語る「純愛への憧憬」

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酒井「年を重ねるほど心の底に根付いてる」

 ♪普通の幸せしか望まないのに それが一番難しいのね――人が純愛話に心引かれるのはなぜだろうか。最愛の妻・容子さんを亡くした宮本英司氏の著書「妻が願った最期の『七日間』」(サンマーク出版)が歌になった。宮本夫妻とのご縁がきっかけで、楽曲制作に至った歌手のクミコと音楽プロデューサー酒井政利氏が純愛への憧憬を語る。

 ◇  ◇  ◇

酒井 若い頃の純愛は当然のようにあります。でもね、年齢を重ねるほど、心の底に根付いているのは純愛なんです。誰もがこれだけは失いたくないと持ち続け、隠し切れない記憶でもある。

クミコ 純愛こそ人生の宝ですよね。たとえば酒井さんがプロデュースされた「愛と死をみつめて」(1964年)は、若い男女が死に直面する純愛の物語でした。が、今回の年を重ねたご夫婦もまた、純愛とおっしゃったときは目からうろこでした。我々の年齢で純愛って言葉にすることはおろか、感情自体を認めることもどこか気恥ずかしい。でも「あるんですよ」っていわれると「そうだ、あるよね」ってハッとします。

酒井 恋人同士であれ、夫婦であれ、あるいは愛人でも(笑い)、ひとかけらの純愛が互いを支え合うんだと思います。それを捨ててしまったときは自暴自棄になってしまうんじゃないかな。

クミコ「普通の暮らしを永遠に守るのは不可能」

クミコ 私は日々の穏やかな暮らしこそが最高の幸せと感じるけれど、実はそれを守るのが一番難しい。誰もが日々を積み重ねていく中で人と出会うけれども、そこには必ず別れも伴う。永遠に守るのは不可能なんですよね。皆、蜃気楼のように消えていくものだと知っているからこそ愛おしいのだと思います。

酒井 クミコさんの歌の世界はドラマチックな面がありますね。それでいて、自身は普通の生活を死守している。これはできそうでできない。

クミコ ただ生きているだけでは心が鈍化してしまうような気がして……。酒井さんはどうですか?

酒井 芸能界は光と影のコントラストが強いぶん、そのまま私生活に取り込んでいると“激流”に流されてしまう。だから自宅に帰って玄関のドアを閉めたら、休む。紙芝居のように場面ごとに絵を引き抜いては入れ替え、一回考え直すんです。

クミコ リセットすることが大切というわけですね。

酒井 ええ。仕事に夢中になっていると、どこか摩滅する。純愛を築き、普通の幸せをつかむってことは人生の永遠の課題でしょうね。

クミコ「歌で喪失感を埋めたい」

 ーー不可逆的な愛を歌わせたら、歌手のクミコの右に出るものはいない。人生の酸いも甘いも噛み分けてきた2人は、変化する令和時代の恋愛をどう思っているのか。

 ◇  ◇  ◇

酒井 令和の恋愛? AIが教えてくれるんじゃないでしょうか(笑い)。既に突入してるけれど、社会がAI化すると情緒はどんどん消えていく。情緒は時間が育むものだから、速度感があると思い合う時間はどうしても希薄になってしまう。

クミコ メールも電話もすぐに通じ、思うようにつながらなかった昔とは違います。

酒井 つながらない思いこそが互いを高めること。平成から令和になっても、度々昭和が語られるのは、情緒があったからなんじゃないかな。そういった意味では、令和の恋愛は難しくなるかも知れない。

クミコ 手紙を書いたら返事が来るまで分からなくて、一体今どこにいるんだろうって。会えない時間が愛を育てていたけれど、全部分かっちゃうんですもんね。電話かけて出なかったら、もうおしまい(笑い)。

酒井 情報社会で相手の行動や、簡単に第三者が透けて見えるんだと思う。そうすると気持ちが萎縮して踏み潰されてしまいますよね。

クミコ 若い人は恋が怖くなっているかもしれない。

酒井 でも人間のいいところは踏み潰されたあとにまた次に行ける、成長できることだと思います。

クミコ 私は歌こそ情緒そのものじゃないのかなって。踏み潰された感情に水を与えるという形で生き延びたいんです。心もとなくなってきたところに一生懸命火をつける。歌ってそのためにあると思う。火をつけるという作業こそ、私のような年齢の歌手の役割。喪失感だったり、欠落したところを潤わせたいです。

酒井 なるほど。そこに歌の価値が出るかもしれない。

クミコ 幸せな歌なんてつまらないですよ。基本、歌は不幸な歌以外あり得ない。好きなのにうまくいかないもどかしさを表現した歌はどんなにお年を召した方が聴いても、ポッと胸に火をつける。時代が変わっても恋心も歌も普遍なもので重要なんじゃないかなと思います。 (おわり)

(聞き手=白井杏奈/日刊ゲンダイ)

▽クミコ 1954年、茨城県生まれ。シャンソニエの老舗「銀巴里」でプロ活動スタート。2017年、「デラシネ」がレコード大賞優秀アルバム賞受賞。今月5日に最新シングル「妻が願った最期の『七日間』」をリリース。7月6日にはEXシアター六本木でコンサート開催予定。

▽さかい・まさとし 1935年、和歌山県出身。立教大学文学部卒業後、松竹、日本コロムビアを経てCBS・ソニー入社。音楽プロデューサーとして山口百恵、郷ひろみ、松田聖子らを輩出。「愛と死をみつめて」(1964年)で日本レコード大賞受賞。現在、酒井プロデュースオフィス代表取締役。

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