著者のコラム一覧
荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

<16>豪徳寺のマンションのバルコニーが俺の「写場」だった

公開日: 更新日:

 毎朝、(世田谷区)梅ヶ丘の家の屋上で空の写真を撮ってるんだよ。ずっ~と、毎日、空を撮影してるね。梅ヶ丘に引っ越したのは、それまで住んでいた豪徳寺の“ウィンザースラム豪徳寺”を壊すことになったからなんだ。豪徳寺のマンションには30年間暮らしてたんだよ(1982年末~2011年)。馬鹿だよね。あのマンションを壊すなんてさ。

 陽子と結婚して(1971年)、最初に住んだのが三ノ輪の実家近くのマンション。その後、狛江や喜多見に住んで、豪徳寺。これは豪徳寺に引っ越した頃の写真だね。バルコニーをきれいにしようと床にペンキを塗ったのよ。その広いバルコニーで、姪っ子たちが飛び跳ねてんの。初めてこのマンションに遊びにきたときだね。うちらの親戚はみんな、だいたい下町だからさ、当時、マンションの広いバルコニーなんか見ると驚いちゃってね。「わ~、広~い! きれいな運動場みたい~」って喜んで、飛んだり跳ねたりしたんだよ、ここでさぁ。

ここから撮る空だけがオレの空なんだよ

 このバルコニーは、豪徳寺のマンションに住み始めてから、ずっとオレのシャバでね。シャバって、写す場所、「写場」ね。これは夏、ものすごい急にきた稲光と夕立が通り過ぎた後なんだよ。だから雨水がたまってるんだ。陽子がバルコニーに出て外を見てる。オレは早速、日光浴してるんだ。この写真は、晴れた日に、陽子が洗濯物を干してる。


写す場所であり、陽子やチロちゃんと生きてきた場所

 このバルコニーからの空は西の空なんだ。このバルコニーからじゃないと空は空じゃなくてね、オレの場合。外国へ行って空を見てもぜんぜんダメでね。飛行機から見てもダメ。飛行機からの空も空じゃない。このバルコニーからの空が、空だったんだ。この頃から空を撮り続けているんだ。引っ越した今の梅ヶ丘では、屋上をつくって東の空を撮っている。朝起きて目覚めたときに、まず空を撮るんだよ。

 豪徳寺のバルコニーをオレは「写場」って言ってきたんだけど、写真を写す場所である前に、陽子やチロちゃんと生きてきた場所なんだよ。(チロは1988年に陽子の実家からもらわれてきた愛猫。陽子亡き後も荒木に寄り添い、22年間をともにした)

 このバルコニーが、なんでこんなに広いかっていうと、ここにもう一部屋作る予定だったらしいんだ。でも隣の家に、日陰になるからって反対されてこうなったらしいよ。だからついてたんだ。このバルコニーを見つけてきたのは陽子なんだよね。 

(構成=内田真由美)

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