菊川怜「今も台風の真っただ中にいる」3人の子育てと仕事の両立という選択。忙しくても“譲れないこと”とは
1998年にモデル活動からスタートし、現在ではシングルマザーとして、6歳、4歳、3歳のお子さんを育てている菊川怜さん(47)。仕事を抑えていた時期もありましたが、昨年からは活動を本格復帰させ、15年ぶりの映画出演で主演を務めた『種まく旅人~醪のささやき~』が公開中です。
本作で兵庫県淡路島の酒蔵に、農林水産省から視察に訪れた日本酒を愛する主人公・理恵を演じた菊川さん。伝統の後継者育成、男性中心だった仕事場に女性が入っていく難しさなど、物語から感じたことに始まり、家族がテーマでもある本作にちなんで、菊川さんご自身の私生活についても聞きました。
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必死に格闘して頑張っている姿に共感
――15年ぶりの主演映画です。
決まった時は本当に嬉しかったです。長くお芝居をしていなかったので、こんなに素晴らしい機会をいただけて「本当?」と思いました。もちろんプレッシャーもありました。「ちゃんとセリフを覚えられるかしら」「カメラの前に立ってお芝居をするってどんな感じだったかな、覚えているかな」とも思いましたが、現場に入ると割とすんなり感覚が蘇ってきて、またここに居られて嬉しいなと感じました。
――今回の物語から影響や刺激を受けたことはありますか?
日本酒造りに関わるいろんな人物が出て来ますが、清水(くるみ)さんの演じる夏美ちゃんは、男性ばかりいる現場に入っていく若い女性蔵人です。日本酒を造りたいという情熱、志を持ってきて、実際に入ってみるといろんな困難にぶち当たる。そのなかで、必死に格闘して頑張っている姿というのは、やはり多くの女性が共感できると感じました。
――そうですね。
それに男性の方でも、違った環境に入っていって頑張っている人なら、きっと共感できるんじゃないでしょうか。新しいものを取り入れようとする息子と伝統を守ろうとする父との間に起きる摩擦や葛藤といった普遍的なテーマも描かれますし、すごい腕を持ってやってきたんだけれど、感覚が衰えてきていて自分の引き際と向き合ったり、後継者をどう育てようかと考えているベテランの杜氏も登場します。いろんな視点で共感を呼ぶ作品だと思います。
20歳より30歳、30歳よりは40歳、ちょっとずつ変化
――菊川さん自身は、年齢によって仕事への向き合い方は変化していますか?
若い時は、本当に何も考えられてませんでした。だからこそ出る変なエネルギーもあったなと思いますけど(笑)。年を重ねると、こんな私でも多少空気を読めるようになってきました。いろいろ経験をするなかで、変わってきたのだと思います。
――大人になったなと感じたきっかけや時期はありましたか?
具体的には難しいですね。やっぱり失敗を重ねたりするなかでだと思います。
――これまで「空気を読めなくて失敗したな」というエピソードありますか?
読めていないんだから、失敗だとも思ってないわけです(苦笑)。だから本当に、徐々に徐々にですね。20歳より30歳、30歳よりは40歳。ちょっとずつ時間がかかりますよね。二十歳になったからといって、大人になったわけじゃなくて、やっぱり社会で経験を積むことによってでしょうね。
ただ変わらない部分も多いですね。20代の頃は40代なんてすごい大人に思いましたけど、なってみたら、見た目だけで、いつまでも葛藤することは変わらないんだなと思います。
トライアンドエラーの日々。まさに台風の中にいる感じ
――現在、3人のお子さんの子育てと仕事と両立されていますが、両立頑張っているご自身の選択をどう感じていますか?
分からないです。答えもないし、真っただ中すぎて必死です。本当にトライアンドエラーの日々なんです。経験がという話をしたところですが、いまの生活に関しては、この経験を経て、こういう答えを得たとか、そういうのは本当に分かりません。
台風の中にいる感じだから、まだ客観視できないんですよね。でもきっと読者のみなさんも同じなんじゃないでしょうか。仕事と子育てという両立でなくても、ひとりひとり、それぞれに抱えるものってあると思います。介護だってそうだし、ほかのこともそう。いろんな状況があると思います。
――周囲の支えは感じていますか?
そこはもう。私は、周りの環境にとても恵まれていると思います。家族にしても仕事にしても。いろんな人のサポート、力添えがあって、いまこうして仕事も子育てもできているんだなと。
昔は感謝していると思っていても、表面上の感謝だった気がするんですけど、いま自分が大変な状況に置かれてみて、本当に心から「ありがたいな」と感じています。
未来を考えても分からない。今を大事にしたい
――忙しい毎日のなかで、自分自身の心に置いていること、譲れないことはありますか?
一生懸命やることかな。よく「手を抜く」と耳にしますよね。もちろん、どんなに頑張っても、どこか抜け落ちているところは絶対にあると思いますが、その中でも私は頑張れるところは頑張りたいんです。
どこという部分を決めているわけではないんですけど、自分の中で「頑張ったな」という思いでいたい。自己満足ですが。
――性格的に、手を抜くほうが気持ち悪いのでしょうか。
そうですね。気持ち悪いですね(苦笑)。自分が楽しくない。現実には全然手を抜いているんですよ。子どものご飯がちょっといい加減になったり、時短を意識したりとか。
だけど、あくまで自分の気持ちとして、トータル的にできる範囲のことはやりたいし、できるだけ一生懸命のほうが充実感がある。結果じゃないんです。ダメな日も余裕であります。でも一生懸命というトライはしたいです。
――日々、お子さんの成長を感じていると思います。小さなことで結構なので、最近「幸せだ」と感じたことを教えてください。
嬉しいことにすごく甘えてくれるんです。だから子どもたちがベタベタしてくれるときが嬉しいです。うしろから抱き着いてきたり、寝るときもみんなで私の上に覆いかぶさってきたり。そういうときが嬉しいし、幸せですね。
――先のことは考えますか?
その余裕はないです。大変な中でも、できる限り今を堪能したいと思っています。今現在のこの子には、「今しか会えない」と言います。たしかに赤ちゃんの時の彼らにはもう会えませんから。だから今が大事だなと。過去はもう過去だし、未来を考えても分からない。今を大事にしたいなと思っています。
映画『種まく旅人 ~醪のささやき~』概要
映画『種まく旅人 ~醪のささやき~』は全国公開中
https://tanemaku-tabibito-moromi.com/
(望月ふみ)