「Lithuania, Lithuania, Lithuania! リトアニア リトアニア リトアニア!」在本彌生著

公開日: 更新日:

「Lithuania, Lithuania, Lithuania! リトアニア リトアニア リトアニア!」在本彌生著

 バルト海に面した小国リトアニアに魅せられ、10年以上にわたって何度も訪れてきた著者による写真集。

 かの地に関心を抱いたきっかけは、一本の映像作品だった。その作品、同国出身の詩人で映像作家のジョナス・メカスの「リトアニアへの旅の追憶」には、「とてつもなく素朴な故郷の美しさと、人々がそのときそこに生きていることへの言葉にならない喜びが、ただひたすら映し出されていた」という。

 確かに、湖だろうか入り江だろうか、水鏡と化した水面に雲が映り込み、水着姿の2人以外誰もいない静かな水辺や、豊かな森の一角でランチを取る人たち、そして夕暮れかそれとも朝日かオレンジの光が石畳に反射する街並みなど、巻頭に選ばれた数葉の写真だけで、この国の素晴らしさが伝わってくる。

 リトアニアと聞くと、多くの日本人は第2次世界大戦中に、ナチスから逃亡するユダヤ人のために「命のビザ」を発給した外交官・杉原千畝氏のことを思い浮かべるだろう。同氏は今もリトアニアで一番有名な日本人だそうだ。

 氏が働いていた当時の臨時首都カウナスの元領事館は、「スギハラハウス」と呼ばれ、往時の面影を今もそのまま残している。氏が寝る間も惜しんで命のビザを書き続けた執務室の窓辺からは、たわわに実る青いリンゴの木が印象的な雨上がりの庭が見える。今は平穏そのものの光景と、氏が生きた緊張した時代とのギャップに思いをはせる。

 ある日には、初めて同国を訪れたときに知り合ったマリヤに誘われ、首都ビリニュスから60キロほど離れたスペングラの森に向かう。知り合ったときは染織を学ぶ美術学校の学生だったマリヤは今、樹木や花を使って立体作品を作る人気アーティストで、野外フェスの会場の森は彼女の手によって装飾されていた。

 またある日は、薬草を採取してお茶に仕立てるハーバリストのラムーナスに同行してアニクシャイの森で野草を採取。リトアニアには、自然すべてが皆のものととらえる自然享受権があり、天然の薬草や果実を節度ある範囲で誰もが採取できるという。

 ほかにもソ連からの解放独立を率いた元国家元首ランズベルギス氏に面会したり、知り合ったばかりの夫婦の車に同乗して向かったメカスの生地セメニシュケイや同国の聖地である十字架の丘、そして4年に1度開かれる国最大のイベント「歌と踊りの祭典」、ジュマイティヤ地方に伝わる獣や魔女の仮装をした一団が歌い踊りながら家々を巡る越冬祭ウジュガヴェネスなど。

「移動しながら彼の中を通り過ぎる時間を切り貼りして作品にする」というメカスの作品のように、著者のレンズを通して、同国の魅力あふれる人々や景色、そして暮らしぶりを伝える。

 読後は、遠くてなじみが薄いリトアニアという国がぐっと身近に感じられてくるに違いない。

(KTC中央出版 5500円)

【連載】GRAPHIC

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  2. 2

    マエケンは「田中将大を反面教師に」…巨人とヤクルトを蹴って楽天入りの深層

  3. 3

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  4. 4

    SBI新生銀が「貯金量107兆円」のJAグループマネーにリーチ…農林中金と資本提携し再上場へ

  5. 5

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  1. 6

    陰謀論もここまで? 美智子上皇后様をめぐりXで怪しい主張相次ぐ

  2. 7

    白木彩奈は“あの頃のガッキー”にも通じる輝きを放つ

  3. 8

    渋野日向子の今季米ツアー獲得賞金「約6933万円」の衝撃…23試合でトップ10入りたった1回

  4. 9

    12.2保険証全面切り替えで「いったん10割負担」が激増! 血税溶かすマイナトラブル“無間地獄”の愚

  5. 10

    日本相撲協会・八角理事長に聞く 貴景勝はなぜ横綱になれない? 貴乃花の元弟子だから?