昭和100年という節目に終焉した仲代達矢の軌跡 「影武者」代役出演時の勝新太郎との確執
延々と『リア王』を演じ続ける鬼気迫る演技を見せた仲代達矢
彼には何度かインタビューしたが、仲代の中では三船敏郎こそ黒沢作品のトップスターであり、自分が最も共闘意識をもって現場に臨んでいたのは小林正樹監督の映画だったとか。「黒い河」(1957年)に始まり、全6部作9時間31分の大作「人間の條件」(1959~1961年)やカンヌ国際映画祭特別賞受賞作の「切腹」(1962年)では主演を務め、13本の作品でコンビを組んだ小林監督との仕事で、彼の名前は世界的に高まった。
他にも「殺人狂時代」(1967年)で彼のコミカルな一面を引き出した岡本喜八監督や、「鬼龍院花子の生涯」(1982年)で豪放で男臭い魅力を描き出した五社英雄監督など、コンビを組んだ印象に残る監督は多い。
70代からの晩年に名コンビを組んだのが小林政広監督で、老人問題を背景にしたロードムービー「春との旅」(2010年)、年金不正受給問題を扱った「日本の悲劇」(2013年)、認知症に侵された老俳優が、自分をシェイクスピアのリア王と重ね合わせていく「海辺のリア」(2017年)の3作品は、仲代達矢が自らの年齢と向き合って役を演じた力作になった。特に「海辺のリア」のクライマックスで、延々と『リア王』を演じ続ける鬼気迫る演技には、老優の執念を感じる。
1997年、萬屋錦之介、勝新太郎、三船敏郎が相次いで亡くなった。その10年前、石原裕次郎が52歳で鬼籍に入っているが、彼ら4人はスター・プロを興して、自ら映画を製作している。仲代達矢は1975年に『無名塾』を創立して、活動の基盤を演劇に置いたが、一方ではそれぞれのスター・プロ映画にも出演していて、全員と親交があった。勝新太郎が亡くなった時「みなさん、向こうの世界に行ってしまわれたが、僕のために酒の席を一席空けて待っていてほしい。また一緒に飲みたいです」と彼は言っていた。今頃、昭和を彩ったスターたちと、あちらの世界でどんな酒宴を開いているか。きっと2022年に68歳で亡くなった小林政広監督も含めて、次の映画の企画を楽しそうに話し合っているに違いない。
(金澤誠/映画ライター)
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