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新井平伊順天堂大学医学部名誉教授

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

定年後…一方は人生を謳歌し、一方は内向き生活で認知症に

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 仕事を辞めると男性は一気に老け込む、と一般的によくいわれますが、「わが家の場合は、母親でした」と話すのは、50代女性のAさん。兵庫県出身で、結婚して現在は高知県で暮らしています。

 Aさんのご両親は共働きで、父親が60歳で定年退職。その後、嘱託で働いていたものの、63歳で完全にリタイアし、現役時代から借りていた畑での野菜作りにいっそう精を出すようになりました。

 キュウリがとれすぎたからと近所に配り、自家栽培のカボチャの煮付けがうまくできたからと1人暮らしの知人宅に届け、リタイアしたとはいえ、忙しい毎日。 

 日々の買い物は個人商店を何軒もハシゴし、ゴミの日などには主婦が中心の井戸端会議にも加わる。Aさんが実家に帰って父親と一緒に歩いていたりすると、通りすがりの人が「娘さん、帰ってきてるんやね」「こないだのお菓子、おいしかったわ。ありがとう」などと次々に父親に声を掛けてくる。

「いつの間にそんなに近所の知り合いの輪が広がったの、と驚きました」(Aさん)

 一方、父親より5歳年下の母親は、65歳まで働き、定年退職。「仕事を辞めたら旅行でも行こうかな」と話していたのが、リタイアした途端に気が抜けたようで、どこにも出かけようとしない。父親の話によれば、一日ぼんやりとテレビを見ていて、お化粧もしなくなった。

 畑仕事に誘っても「だるいから」「めまいがするから」「なんだか調子が悪いから」……。

 そんな生活が1、2年続き、「お母さんの様子がおかしい」と父親からの連絡でAさんが様子を見に行った時は、認知症を疑う症状が出ていました。

 なかなか病院に行ってくれず、アルツハイマー型認知症と診断されたのは約半年後。それから5年、Aさんは父親、大阪に住む妹と協力し、高知県と兵庫県を行き来し、母親の介護をしています。

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