羽生善治通算100期なるか 竜王戦第1局を田丸昇九段が解説

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 豊島将之竜王(叡王=30)に羽生善治九段(50)が挑戦する第33期竜王戦7番勝負第1局が、10月9、10日に東京都渋谷区の「セルリアンタワー能楽堂」で行われた。羽生は竜王を奪取すれば、通算タイトル獲得が大台の100期に達して最多記録を更新する。

 ◇  ◇  ◇

 豊島はタイトル獲得が通算5期だが、過去3回の防衛戦(棋聖戦・王位戦・名人戦)でいずれも敗れている。今期の竜王戦は、羽生の「100期」と豊島の「初防衛」をめぐって、大いに注目されている。

 2017(平成29)年の第30期竜王戦で、羽生棋聖は渡辺明竜王(36)に7期ぶりに挑戦した。「最後のチャンスかもしれない」という思いで臨んだ羽生は、渡辺を4勝1敗で破り、15期ぶり通算7期目の竜王のタイトルを獲得した。

 羽生は規定によって「永世竜王」の資格を得ると、すでに取得している永世称号を合わせて「永世七冠」という前人未到の金字塔を打ち立てた。

 羽生は当時、ある対談で今後の目標について、「先のことを考えても、実際はその通りにならないことが多いので、まずは目の前のことを一つ一つ。流れに任せていくのがいいのかなと思っています」と語った。通算100期のタイトルを目前にしている状況で、控えめで自然体の姿勢は謙虚な性格の羽生らしい。ただ、内心では「なるべく早く達成したい」と思っただろう。

■技術的な衰えや限界説

 ところが、羽生自身が語った「その通りにならないこと」がそれから今日まで続くとは、本人はもとより私たち将棋関係者も意外だった。羽生は2018年のタイトル戦で、僅差の勝敗で続けて敗れたのだ。

 佐藤天彦名人(32)に挑戦した名人戦で2勝1敗から2勝4敗で敗退。棋聖戦で挑戦者の豊島八段に2勝3敗で失冠。竜王戦で挑戦者の広瀬章人八段(33)に2連勝から3勝4敗で失冠。羽生は竜王戦で敗れて27年ぶりに「無冠」となり、肩書は九段に変わった。それから今年の竜王戦までの2年間、タイトル戦に登場することはなかった。技術的な衰えや限界説がささやかれた。

第1局は豊島の16手目、後手6五桂と銀取りがポイント

 羽生が低迷していた今年、超新星の藤井聡太七段がタイトル戦に初めて登場。そして、7月に17歳11カ月の最年少記録で棋聖を獲得した。8月には王位も獲得し、最年少記録でタイトルが「二冠」となった。羽生は藤井の将棋について「日々の対局や棋譜を見て、参考にしたり勉強している」と語った。以前は藤井が羽生の将棋を目標にしたものだ。

 さらに9月下旬に行われた王将戦リーグの藤井―羽生の対局で、現在の両者の立場を象徴する場面があった。対局室に先に入った藤井は、ためらうことなく上座に座ったのだ。プロ棋界では年齢や段位に関係なく、タイトル保持者が上位であるのが決まりである。

 なお、羽生は藤井との対局で、終盤で鋭い勝負手を放って逆転勝ちし、藤井に対して5局目で初勝利を挙げた。

 竜王戦第1局の豊島―羽生戦は、後手番の豊島が序盤の16手目にいきなり後手6五桂と銀取りに跳ね、意表を突く展開となった。羽生はそれを受けずに攻め合いに行った。ボクシングに例えると、双方がジャブを繰り出す前に、足を止めて打ち合ったようなものだ。

 中盤で豊島は99分と77分、羽生は102分と87分と、ともに大長考した。それほど難しい戦いだった。しかし、羽生は攻めるところで受けたり、受けるところで攻めたことで、不利に陥った。2日目の16時12分。豊島が乱戦を制して52手の短手数で勝った。終了局面で双方の玉は、一手も動かさない「居玉」のままだった。

 竜王戦7番勝負は始まったばかりだ。羽生の巻き返しを期待したい。

 羽生は数々の記録を塗り替えてきたが、まだ超えられない存在が大山康晴十五世名人だ。大山は50代以降にタイトルを11期も獲得した。66歳でタイトル挑戦、69歳まで順位戦でA級在位という記録もある。50歳の羽生には、それらを目標にして今後も戦い続けてほしいと、私は思っている。

(田丸昇 九段)

人間の脳は50歳になってからでも成長できる

 現在、将棋のタイトル保持者の年齢は、名人・棋王・王将の渡辺明が36歳、竜王・叡王の豊島将之は30歳、王座の永瀬拓矢が28歳、そして王位・棋聖の藤井聡太の18歳となっている。タイトル保持者の平均年齢は28歳。羽生の七冠達成も25歳の時だったことを考えれば、20代が将棋の全盛期と言えるだろう。

 だが、努力次第で全盛期を維持することはできる。史上最年長タイトル挑戦は、66歳11カ月の大山康晴十五世名人(棋王戦)。最年長タイトル保持者もやはり大山で、59歳で王将位を中原誠十六世名人から防衛している。50歳以上でタイトル挑戦した棋士は過去4人。土居市太郎(当時52歳)、升田幸三(同53歳)、大山、そして今回の羽生しかいない。

 50歳以上は脳に衰えが来るのか。人の名前がすぐに出てこなくなるが、人間の知能には「結晶性知能」と「流動性知能」がある。結晶性知能は、日常的な習慣、理解力、洞察力を担い、加齢による低下が少ない。一方、流動性知能は新しいことに適応する能力で、暗記力や推理力。ピークは20~50歳とされる。

 だが、脳科学者の篠原菊紀氏(諏訪東京理科大教授)によると、「集中力は18~25歳がピークだが、仕事の集中力は40代くらいに最大化する」という。最新の研究ではBDNF(脳由来神経栄養因子)がニューロン(神経細胞)を増やすこともわかっている。BDNFをどうしたら増やせるかというと、「やりたいこと、楽しいことをする」(前出の篠原氏)ことなのだ。

 マサチューセッツ工科大学のハーツホーン教授(認知科学)によると、脳の分野別ピークは「情報処理・記憶力」が18歳、「名前の記憶」が22歳、「顔認識能力」が32歳、「集中力」は43歳、「感情認知」が48歳、「語彙力」が67歳となっている。要するに、各年齢ごとにピークが存在するというわけだ。

 そのピークを永続させるには、とりあえず仕事でも将棋でも「好きなこと」を「楽しんでやる」ことに尽きる。大山十五世名人も麻雀とゴルフを無類に好んでいた。

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