三省堂本店に鬼滅垂れ幕 本の街・神保町の新しい取り組み

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 政府の進める「Go To商店街」(10月19日開始)事業の1次締め切りで採択された34事業の取り組みが始まっている。今後、東京都世田谷区の烏山駅前通り商店街「えるもーるイルミネーション」や大阪市の九条駅前商店街「こどもまつり2020」などを予定。そんな中、国に頼らない独自の取り組みを続けているのが、本の街・神保町だ。

 ◇  ◇  ◇

 映画業界に久々の活況をもたらしている劇場版「鬼滅の刃」。その主人公の竈門炭治郎、「ONE PIECE」のルフィ、「呪術廻戦」の虎杖悠仁の巨大懸垂幕が三省堂書店神保町本店に10月から登場した。

 企画したのは、「本の街・神保町を元気にする会」から派生した“若手の会”有志。中華料理の名店「新世界菜館」専務の傳良平氏(43)、三省堂書店専務の亀井崇雄氏(44)らだ。“若手”と呼ばれるにはいささかトウが立っている気もするが、そこは両名も承知済み。苦笑交じりにこう話す。

「街の灯が消える中、神保町を元気にする会の八木事務局長(壯一、八木書店会長)から『何か目立つものを』と提案があり、若手の会メンバー12人と急ピッチで企画を考えました。自粛下でもあり、LINEグループで意見交換をしながら、常連を大事にしつつ、これまで目立たなかった10代20代の若い人も呼び込むアイキャッチ的なものを作ろうとなった。そして、4カ月ほどの突貫工事で専用サイトの立ち上げなどにまでこぎつけました」(傳氏)

集英社の社長に直談判したら…

 人気漫画を使った懸垂幕の提案は、“若手”ならではのこと。明治時代以降、学者や研究者の資料となった新刊・古書店が軒を並べる“伝統の街”には、やや不釣り合いな感じもする。

 そこで2人がまず始めたのはキャラクターの版権を持つ集英社への使用許諾の談判。ところが、意外な結果に両名は驚く。

「やはり神保町を元気にする会の理事も務める集英社の堀内丸恵社長(現会長)に直接、談判の格好で話を持って行ったところ、『街の活性化のためなら』とあっけないほど簡単に承諾が出た。こちらとしては及ばぬ金額ながらも使用料を用意していたのですが、堀内社長の返答はまさかの『NO』。堀内社長自ら各方面と交渉してくれ、無料でルフィや炭治郎を使わせてくれたほか、しかも懸垂幕の作製費用まで集英社が出してくれたのです」(傳氏)

 これぞ渡りに船。その予算を「神保町からあなたを応援しています!!」という街の紹介サイトの立ち上げにそっくり回せたのだ。スマホを空にかざして懸垂幕中央のQRコードを読み込むと、神保町の見どころ動画やおさんぽMAPが見られる専用サイトにつながる仕組みだ。

巣ごもり消費は出版業業界に追い風

 4月の緊急事態宣言で東京都からキャバレー、ナイトクラブと並び休業を要請されたのが、神保町の代名詞とも言える古本屋だった。現在もリモート講義の続く明治大学、日本大学、専修大学、共立女子大学の学生の姿はまばらだ。だが、本屋やそれを取り巻く出版事業が衰退の一途かというと違う。

「繁華街や大型商業施設内店舗には逆風が続いていますが、出版業全体で見ればコロナが追い風になっています。巣ごもり消費によって実用書、レシピ本、コミックスなどの需要が高まり、特にこれまで経営の厳しかった住宅街の本屋さんに人が戻ってきている。三省堂本店も一時期、自主休業していましたが、再開初日には正面玄関前に開店待ちの人があふれたものです」(亀井氏)

 そういう亀井氏のカバンには、ベストセラーとなっている新書「ケーキの切れない非行少年たち」(宮口幸治著)がしのばせてある。

 全国出版協会・出版科学研究所によると、今年上半期の出版市場規模は電子書籍が前年同期比28.4%増の1762億円、紙媒体こそマイナス2.9%の6183億円だったが、全体では2.6%増の7945億円と好調だ。コロナ禍という事情を考えれば十分健闘と言え、下半期はさらなる飛躍が期待できる。

「街の魅力の発信も変えていく必要があります。本屋街に女性を呼ぶためにはどうしたらいいのか、グルメやお酒を楽しむ街にするにはどのような改革が必要か、若手メンバーが集まれば、その都度、さまざまな提案が持ち上がります。最近はパンケーキの店などに若い女性の行列も見かけます」(傳氏)

「ふらりと散歩がてら街に来てもらっても、以前の神保町の古本屋のほとんどは土日休業でした。しかし、今では半分ほどが店を開けています。当店の売り上げデータを見ても、曜日ごとの売り上げは土曜日が1番、次が日曜日になっています」(亀井氏)

 第61回の「神田古本まつり」(主催・神田古書店連盟)の中止など暗い話題が続いたが、街自体が時代に合わせて変化をしているようだ。こういった若手・中堅の取り組みは、もう少し規模の小さい商店街活性化の参考になりそう。

 最後に2人が強調するのが、「神保町からあなたを応援しています!!」というキャッチコピー。「本の街・神保町を元気にする会」という主体側とは真逆の、客体としてのメッセージだ。

「こういったご時世ですから『来てください』とは言えません。ただ、知ってほしい」(傳氏)

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