学者が指摘「コロナも数学力を鍛えなければ解決できない」

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 新型コロナウイルスの流行はスペイン風邪(インフルエンザ)に比類すべきものであるが、100年前との大きな違いは「科学」の進歩。ところが、100年後の現代人も非科学に頼り、SNSなどを通じて間違った情報に惑わされている。桜美林大学教授で「AI時代に生きる数学力の鍛え方」の著者である芳沢光雄氏(数学者)に、その原因と対処法を聞いた。

■米国でQアノンが増えるのは当然

 アメリカ発の陰謀論「Qアノン」の波が日本やイギリス、ドイツにも拡大している。世界は悪魔崇拝の小児性愛者であるディープステート(影の政府)に牛耳られており、バイデン大統領の就任式(1月20日)には全米規模の停電が発生、「審判の日」が来る――。

 もちろん、そうはならなかったし、ロジカル(論理的)に考えれば、その間違いに気付きそうなもの。ただ、そうした人たちはコロナも人為的に操作されているとして疑わず、ヤギの皮の太鼓を打ち鳴らして感染から身を守ろうとしたりする。

 論理的思考の本家本元が「数学」や「科学」だが、2018年のPISA(学習到達度調査)でアメリカは、「科学的リテラシー」がOECD加盟国(37カ国)中13位、「数学的リテラシー」は31位に沈んでいる。高校1年生が対象とはいえ、数学的な考え方が苦手なアメリカ人が、陰謀論にどハマリする根拠のひとつとも言えそうだ。

■本塁打を打たれた後に論評してもダメ

 この分野で日本は常に上位にいるとはいえ、読解力に関しては11位(前回2015年は6位)と下降傾向が続く。

「日本人は、答えを当てる『マークシート』には強いのですが、答えを導く『論述』を苦手とします。これは暗記重視のマークシート式問題の明らかな弊害で、思考のプロセスは軽視されてきました。そのクセが抜け切れないのか、コロナ禍においても同じ間違いが起きていて、戦略的思考ではなく、日々の陽性者数などの結果的思考が重視されています。結果的思考とは、株が暴騰したり、野球の投手がホームランを打たれた後から、結果に至る理由をもっともらしく説明する思考です。評論家の解説でもたまに聞くものであり、『事が起こる前に言ってよ』という感想を持つ人もいるでしょう。これに対し戦略的思考は、輸送の効率的な運用法を起源とする『線形計画法』や作業日程のスケジュールを検討する『パート法』、社会や自然界の意思決定を数学的モデルで検証する『ゲーム理論』などさまざまな計算式によって導き出されます」

“8割おじさん”はホラ吹きなのか?

 先のPISAで特に日本人の正答率が低かったのは、情報を探して評価する問題。具体的には「必要な情報がどのWebサイトに記載されているか推測し、探し出す」「情報の質と信憑性を評価し、自分ならどう対処するか、根拠を示して説明する」という力が弱かった。

「成長の過程などを分析する時に使う数式に、具体的な統計データを代入して今後の推移を予想する数理モデルの研究は、戦略的思考の例です。当然、当たることもあれば当たらないこともあります。当たらない場合、データに偏りはなかったか、あるいは用いた数式は研究対象に適当だったのか、などの見直しや修正を加えて、より実際に合う数理モデルを構築していきます。これも戦略的思考です。一方で、コロナに関することだけに多くの国民は結果に注目するのは仕方がなかったかもしれませんが、数理モデルの研究に関して、結果だけ見て、『Xさんの予想は当たった、Yさんの予想は当たらない』といった結果だけをうんぬんする発言もいろいろ聞きました。このような後ろ向きの発言は結果論的思考です」

 20世紀初頭、英国のケルマックとマッケンドリックが定式化した感染症数理モデルは、8割おじさんこと京大の西浦博教授と研究室に受け継がれた。その西浦教授は昨年4月、「人と人との接触など対策を取らなかった場合、国内の重篤患者は約85万人に上り、うち半数が亡くなる」と警告し、結果的にホラ吹き呼ばわりされた。人々の回避行動や集団意識といった変数は、それほど予測が難しい。しかし、緊急事態宣言の解除やオリンピック開催、GoToトラベルの再開といった問題は、やはり数理モデルから導かれなければならない。ふわっとした“感覚”での判断は、それこそ太鼓を叩いてウイルスを撃退する人と変わらないだろう。

「緊急事態を解除する要件としては、1人の感染者が次に平均で何人にうつすかを示す『実効再生産数』があります。実効再生産数が2ならば、感染者A君は2人にうつします。その2人をB君とC君とすると、B君とC君はそれぞれ2人にうつすので、新規に4人が感染します。その4人をD君、E君、F君、G君とすると、その4人はそれぞれ2人にうつすので、新規に8人が感染します。このように、実効再生産数が1より大きいと、感染者数はねずみ算的に増えていきます。一方、実効再生産数が0・5ならば、新規に感染した16人から次に8人に感染し、その8人から4人に感染し……というように0人に収束していく数列をつくります。以上から、実効再生産数が1より小さくなることが絶対条件ですが、1に近い数はブレがあると1を超えるので、なるべく1より0に近い数値に“解除”の条件を置いた方がよいでしょう」

■データの取り方には細心の注意を

 日本政府の中には数学的思考が苦手な人が多いのか、優先順位の付け方も大の苦手。小中学校の授業がストップした時には、リモート授業をどうするかではなく、緊急性の低い「9月入学」が検討されたほどだ。統計データの取り扱いしかりだ。

「緊急事態宣言が発令されても、新宿、とくに歌舞伎町に出掛けてしまう人の数はそれほど減っていないという報道を何回か見ました。これは、統計データの取り方に問題があります。午後8時以前に取ったデータなのか、午後8時以降に取ったデータなのか明示していません。私は午後10時前後と午前0時前後の歌舞伎町を見学しましたが、風林会館から旧コマ裏の交番に至る道で、ほとんどの飲食店は閉めていました。もちろん、人通りはまばらで空襲警報が発令されているかのように感じました。ただ、ほんの数軒のお店は営業していましたが、営業しているお店はどこも満席でした。ついでにホスト街を外から見学しましたが、これは何軒も営業していることが確認できました。統計データの取り方には細心の注意を払う必要があります。実地検証で、生の情報を入手すべきでしょう」

 国のトップにこそ数学力が必要だ。

▽芳沢光雄(よしざわ・みつお) 1953年、東京都生まれ。桜美林大学リベラルアーツ学群教授。国家公務員採用Ⅰ種試験専門委員、日本数学会評議員、日本数学教育学会理事などを歴任。鉄道ファン。曽祖父は犬養毅、いとこに緒方貞子(故人)や川島裕(元外務事務次官)らがいる。

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