“問題社員”を退場させる「退職勧奨の太陽方式」7ステップ

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 コロナになる前、仕事をするふりや社内の付き合いで生き残ってきた人たちは、テレワークで立場が危うくなったといわれる。どんな会社にもお荷物社員はいるが、だからといって日本の雇用制度ではクビにできない。働き方改革総研代表の新田龍氏が言う。

「たとえば、無断欠勤を繰り返す、やる気がなく外回りを口実にサボる、不注意で会社に損失を与えた上に取引先を失った、パワハラで部下を萎縮させる、という社員がいるとします。いずれも会社にとっては、問題社員で、社内のムードを悪くさせ、業績を低下させるリスクをはらむ。しかし、労働契約法によって解雇はよほど合理的な理由がない限り認められません。これらの問題行動から解雇を言い渡しても、裁判で解雇無効とされるケースは珍しくないのです」

■コロナ禍の業績低迷でも解雇は無効

 労働契約法第16条は、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を乱用したものとして、無効とする、としている。その判断が示された一例が、先月9日付の福岡地裁決定だ。

 コロナ禍による業績低迷で整理解雇されたバス運転手の男性が、雇用関係の確認と未払い賃金の支払いを求めた仮処分を申し立てたもの。問題社員のトラブルではないが、解雇の難しさが分かりやすいので、おさらいしよう。

 コロナ前に月に2000万円から3500万円だったバス会社の売り上げは、コロナ禍の広がりで昨年3月は399万円、4月は87万円に急落。5月にはゼロになった。そこで会社は従業員20人のうち、男性を含む運転手2人を昨年3月で解雇している。

 福岡地裁は、経営環境の厳しさや国の雇用調整助成金の支給が不透明だったことなどから、「人員削減の必要性は一応認められる」と合理性を認定しつつも、削減規模や人選の基準を説明せず、希望退職者も募らず解雇予告したことは「拙速と言わざるを得ない。(新たな高速バス事業に男性が手を挙げなかったことを理由とした人選については)客観的な合理性を欠いて、社会通念上相当とは言えない」と解雇は無効に。会社には、男性に月18万5000円の支払いを命じている。

 会社の業績がこれだけ傾いても、リストラの仕方や募集の方法など手続きによっては、解雇が無効になることを福岡地裁の決定は示している。それを解釈すれば、会社に有害な問題社員を解雇するには、とにかく合理的な手続きが必要だということ。そうしないと、無駄な法廷闘争を余儀なくされ、会社は時間もカネも浪費する。コロナでつらいときこそ、ブラックな問題社員をうまく追い出す環境整備が大切だ。

 そんな状況から新田氏は「問題社員の正しい辞めさせ方」(リチェンジ)を上梓。辞めさせ方のノウハウを解説している。そんなウマい方法があるのか。新田氏に詳しく聞いた。

「ドライな外資系企業は社員をすぐにクビにするといわれます。しかし、外資系企業であっても、日本で活動する日本法人は、日本の法律が適用されるため、この表現は正しくありません。クビではなく、きわめて強力な退職勧奨をしているのが正解です。日本IBMが2008年に実施したリストラを巡り、社員が執拗に退職を迫られたとして同社を訴えた裁判がありましたが、東京地裁は11年12月28日、違法性はないと判断しています。問題社員をうまく排除して社内の規律を守るためには、解雇ではなく、退職勧奨をしっかりと行えるかどうか。そこにかかっているのです」

 日本IBMのリストラで、東京地裁の判断の根拠はこうだ。退職勧奨の対象となった社員が消極的意思を示した場合でも、具体的かつ丁寧に説明説得活動などを行って再検討を求めることなどは社会通念上相当な態様である限り許容される。

面談で改善策を提示。教育・指導を徹底する

 では、問題社員を“退場”させるには、どんな手順を踏めばいいか。7段階あるという。

①就業規則を整備する

②日ごろから社員と密なコミュニケーションをとる

③問題のヒアリング

④書面による注意

⑤人事異動。配置転換

⑥懲戒処分

⑦退職勧奨

 ごく当たり前のことだが、ステップ1からおろそかになっていることが少なくないという。

「就業規則には、労働時間、賃金、退職の3つを必ず記載しなければいけません。しかし、必須項目ではないことこそ規定しておいた方が無難。それが、『欠勤』や『遅刻』、問題行動に関する『懲戒処分』と『休職』に関するルールです。これらの規定がないと、社員の問題行動を注意しようにも注意できず、対応が場当たり的になってしまいます。問題社員をブラック化させる余地を残すのです」

 ②がないと、問題を見つけても社員に注意できない。部下や社員とはまんべんなく意思疎通を図ることが狙いで、実際の手続きは③以降だ。

「すぐにでも去ってほしいと願うような問題社員でも、③のヒアリングがとにかく大切です。これを丁寧にやって、問題の原因を探り、改善策を提示したり、研修の場を提供したりすること。それをせず、④の書面での注意もやらずに、⑤~⑦の具体的なリストラ策に進むとこじれやすい。私は退職勧奨の方法を2つに分類。③④を飛ばして⑤~⑦に進むのが『北風方式』で、③を丁寧にやってソフトランディングを図るのが『太陽方式』と呼んでいます。目指すべきは、もちろん『太陽方式』です」

 命名の由来は、イソップ寓話の「北風と太陽」による。北風と太陽の力比べで、旅人の上着を脱がせる勝負をする。北風は強風で上着をはごうとするのだが、上着をしっかりと押さえられてダメに。次に太陽が日を照らすと、旅人は暑さに負けて上着を脱いだ。問題社員への対応も、厳しさより寛容さが必要だという。

 あるゲーム会社では、人事評価が低い50人を対象に退職勧奨を実施。1人だけ退職を拒否したところ、会社は就業規則の解雇事由に当たる「労働能率が劣り、向上の見込みがないと認めたとき」に該当するとして解雇。その社員は解雇を無効として、地位保全と賃金の仮払いの仮処分を求めて東京地裁に提訴した。

 その結果、東京地裁は解雇を無効とし、会社に仮払金約350万円の支払いを命じている。地裁が、社員の評価が下位10%未満で業務遂行能力が低いことを認めながらも解雇を無効としたのは、指導や教育で能力を向上させる余地があったのにそれを怠ったことが大きな要因だ。

「問題社員には、まずヒアリングで問題を把握して、能力不足の根拠や問題行動の改善策を示して指導します。その上で注意するときは文書で示して記録に残す。それで能力や行動が改善すれば、会社への貢献度が増して丸く収まる。改善しなくても、注意・指導の履歴が残っているので、裁判で教育指導の欠如を指摘されることがありません。何より太陽方式がいいのは、問題社員が自ら会社を去ってくれる可能性があることなのです」

 新田氏が知るある不動産会社では、給料と働きぶりがマッチしない管理職が退職勧奨に。会社は求める管理職像を明確に打ち出した上で、その人に仕事の洗い出しをさせて面談を実施。「会社が求めるものと現在の働きぶりにギャップがある。この差をどう埋めるか」と冷静に改善を要請する一方、「長年の経験と知見にはとても期待しているから、力添えをしてほしい」と伝えた。決してなじったりせず、毎週の面談で丁寧に進捗状況と改善策を確認したところ、管理職は改善要求にこたえられず、依願退職したという。

 問題社員は会社にとって目の上のたんこぶ。それでも急がば回れ。退職勧奨は太陽方式でじっくりと行うことを、管理職は肝に銘じておこう。

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