手塚マキ氏「歌舞伎町は誰かがまとめられる街ではない」

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手塚マキ(ホストクラブ 飲食店経営者)

 23年の間、生きてきた新宿・歌舞伎町はいまなお、コロナ禍のまっただ中だ。ホスト叩き、夜の街イジメが繰り返され、3回目の緊急事態宣言下では事実上の“禁酒令”が敷かれ、飲食店はアルコールを提供できなくなった。出口が見えない大打撃を食らい続ける不夜城には何が見えているのか。

 ◇  ◇  ◇

 ――この間、歌舞伎町はどのような状況でしたか。

 昨年5月に東京都が「新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップ」を示した時にホストクラブやキャバクラが記載されていなかったんです。それでどの店も6月に営業再開したら、すぐに新宿区長から連絡が来て区長室に行きました。当時のホストクラブは社会の批判を気にしつつも、開き直っている雰囲気でした。メディアには散々叩かれ、都知事も「夜の街」と叫ぶ。ほとんどのホストクラブ経営者たちは、どうせ俺たち日陰者だし、従業員を守るために店やってカネ稼ぐしか選択肢もない、と言っていました。僕も彼らの言い分は重々わかりました。しかし生意気な言い方かもしれませんが、区や保健所の方は私に対してとても誠実に対応してくれたので、同じように他の経営者たちとも直接話す機会をつくれば歩み寄れるのではないかと思い、翌日と翌々日の会合をお願いしたんです。この人たちだったら「顔が見える関係」になれば、協力体制がつくれるのではないかと思ったのです。翌日には数人の経営者が集まってくれました。区長たちは彼らの苦情や陳情を聞いた上で丁寧に、基本的な行政の在り方を含め状況説明をしてくれました。それは経営者たちも納得するものでした。それで区は敵じゃない、都知事とは違うと受け止めて信頼が口コミで広がっていったんです。

 ――むしろ構えていたのはホスト側だった。

 だと思います。それから数カ月にわたって週1ペースで夕方に2時間ほど会合を持ち、区長たちは冒頭には毎回同じ説明をして、陳情や不満を受けていた。それがうちの業界以外にも広がって「新宿区繁華街新型コロナ対策連絡会」のような大きな組織に発展しました。昨年10月、第3波の前に先手を打って区民ホールで感染症の専門家を招く講演会を開いて、参加した店にはシリアルナンバーも発行しました。これは意味があったと思います。

 ――今後の対応は。

 店は生き残らなければなりません。大きな店は賃料も高いし、ライバル店が営業していれば休むわけにはいかない。歌舞伎町は誰かが取りまとめられる街ではないので、歌舞伎町的市場原理がどう働くかは私にもわかりません。行政も店もどこで妥協するかになるでしょう。

■「新宿の人間の感染拡大リスクは小さいと思う」

 ――ホストクラブにおける感染拡大への懸念はいかがですか。

 一番の問題は感染を隠すことです。その意味で、新宿の人間は無理して出てきて感染を広げるリスクは小さいと思います。働くことに積極的ではない人が多くて、ちょっと具合が悪いとすぐ休む。一方で感染者を責めたり、差別する文化もないんです。「夜の店」は不特定多数の人が来るわけじゃなくて、お客さんは知っている人ばかり。発症すればすぐわかるし、追跡もしやすい。それにホストは交友関係も閉鎖的で外に感染を広げる可能性は低い。もともとマスク文化なのでマスクにも抵抗がない。ひげを見られるのがイヤとかで一年中マスクをしているホストが多いんです。酔っぱらって飛沫感染するリスクは否めませんが、最近、歌舞伎町でクラスターが発生したとは聞いていません。

 ――なるほど。政府や自治体に要望はありますか。

 迅速なワクチン接種とPCR検査拡大。昨年5月から区に要望しているプール検査も早く導入してほしい。「まん延防止等重点措置」とか中途半端です。きつめのロックダウンをする方が有効な気がします。今って国民の心を健康にする政策ではないですよね。

 ――都知事は相変わらず歌舞伎町に攻撃的です。

 区と都ではサイズが違うからしょうがないかなとも思います。うちの従業員だって、都知事選で小池さんに票を入れた人もいましたから。

「稼ぐだけの経営者になるってちょっと違うと」

 ――そもそもどうして歌舞伎町に。

 就職氷河期世代でステレオタイプの終身雇用のレールに乗る教育を受けてきたのですが、現実社会との違和感があったんです。それに比べて歌舞伎町が自由に見えたし、受け入れてくれたというか。ここには最近言われ始めたダイバーシティーのようなものが昔からあるんです。だから今も歌舞伎町にいられるような気がします。

 ――飲食のほかに介護事業も手がけていますね。

 ホストのセカンドキャリアということもありますが、おもてなしを別事業にスライドしたひとつが介護でした。ホストクラブや飲食店は売り上げが全てという短絡的なものではなくて、相手の意をくみ取って心地いい時間をつくるものです。その価値を従業員に理解してもらうため、20年以上一緒に働いている仲間の成長に従って、やれることをやっているだけです。

 ――いろいろ経営戦略を考えていますよね。

 19歳から始めたホストでナンバーワンになって、2003年に独立した時は歌舞伎町イチの店をつくろうとしたんですが、ただ稼ぐだけの経営者になるってちょっと違うと思ったんです。結局、お金を稼ぐことに執着するのはただのゲームで、30歳くらいで疲れたところもありました。歌舞伎町の外に別の社会が広がっていることも知ってしまった。僕自身は歌舞伎町である程度成功できるとは思ったんですけど、僕を慕ってついてきてくれる連中は全員がそうはなれないと思った。最初から一緒に働いている人間も30歳を過ぎ、そいつらが生き残れる会社は何かと考えたのがきっかけで、その思いが今も変わっていない。会社は自分たちの居場所だと思ってくれている従業員が多いと思うんです。介護なんて毎月赤字ですが、他の事業部が許しているのはそういう理由からでしょう。ほかにもチャレンジしては失敗をしてます。

 ――しかし手っ取り早くカネを稼ぎたくてホストになる人が多いのでは。

「君は選ばれた人間」だとあおり、ホスト同士を競争させ、その地位にしがみつくことに執着させて視野を狭くさせるのがホストクラブの王道のビジネスモデルです。でもそれって居心地は悪いし、うまくいく人は本当一握りなんですよね。でもうちではホストをやりながらいろんなことを経験できる。短歌を詠ませたり、ゴミ拾いさせたり、現代アートのイベントに参加させたり、いろんなことに向き合わせて視野を広げつつ、堂々とホストをやれる環境をつくっています。

■一筋縄ではいかない連中の人間味と深さ

 ――歌舞伎町で書店も経営していましたね。

 従業員が本を買って感想文をブログに上げたら、経費で落とすようにしていたんですが、それでもなかなか読書しないので、いっそのこと書店をつくってしまおうと。

 ――なぜ従業員に本を読んでもらおうと?

 歌舞伎町に集まる人は教育をちゃんと受けていない人が多いけど、心が優しい子が多いんです。そこを伸ばしてほしい。日本という成熟社会ではこれ以上経済成長をして幸せになるのではなくて、心の豊かさの教育に切り替えるべきだと思うんです。芸術や文学にたくさん触れて、そういう心の豊かさを他人に伝えられる人間になってもらいたいと思っています。

 ――今後の展望をどう描いていますか。

 夢を持てって言うけど、夢って無理に持つ必要はないと思うんです。うちはアメーバ的な組織なので、みんなの行きたい方向に自然と進んでいくと思います。コロナ禍でクローズアップされたことって飲食店の存在ですよね。誰でも飲食店の従業員になれますが、あまりにも人数が多く、誰でもなれるが故にモラルが低い人も多く、そして連帯はしない。だから抑圧される対象としてわかりやすかった。コロナ禍によってそういう社会の一面がむき出しになり、歌舞伎町ってそれが顕著に表れた場所です。その中に身を置きながら、矛盾を抱きしめつつ、社会全体のことも考えていくのが人生のテーマだと思っています。歌舞伎町は一筋縄ではいかないんですよ。だけどそういう連中に人間味を感じるし、ある意味強さも感じるんです。それをわかり続けていきたいんです。

(聞き手=平井康嗣/日刊ゲンダイ)

▽手塚マキ(てづか・まき) 1977年、埼玉県生まれ。中央大理工学部中退後、97年から歌舞伎町で働き始め、ナンバーワンホストを経て、2003年に独立。会長を務める「Smappa! Group」は従業員300人、ホストクラブやバー、ワインスクール、ヘア&メークサロンなどを擁するグループに成長。ホストのボランティア団体「夜鳥の界」を設立。深夜の街頭清掃活動を行うNPO法人グリーンバードの理事や、歌舞伎町商店街振興組合常任理事を務める。17年には歌舞伎町初の書店「歌舞伎町ブックセンター」をオープン。共著書に「新宿・歌舞伎町」「ホスト万葉集」など。

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