「防衛政策の歴史的大転換」合意の瞬間 燃える暖炉の前で紅潮する岸田首相に浮かぶ不安
誰がいつどこで賛成したのか
それ以前に、安全保障関連3文書なるものがあった。特に敵基地攻撃能力を持つことが抑止力になるというもっともらしい理屈からいけば、日本から戦争を仕掛けることも可能になるということではないか。アメリカなど他の国からの要請があったとしても、これで日本は完全に戦争にまきこまれる。
しかもそのための防衛費倍増計画は、復興予算や他の重要案件に使われるべき税金がまわされるかもしれない。そのための増税も必要だ。いったい誰がいつどこで賛成したのだろう。
防衛費に税金をまわしたり増税については自民党内でもさまざまな意見があるようだが、「国民の声を聞く」をモットーに掲げていた岸田首相の真意はいったいどこにあるのか。ウクライナ問題をきっかけにロシア、中国、北朝鮮など、いったん事が起きれば、必ず日本もまきこまれる情勢を目前に、首相自身の覚悟が見えてこないから国民は不安なのだ。
私は太平洋戦争を知っているから(敗戦時小学3年)、国民が何も知らず、納得しないまま、空襲警報のただ中にいたことを忘れない。気がついた時は戦争にすでに入っていた。
日本は何かを決定する過程が常にはっきりしない。うやむやのうちに事は進行し、気がついた時は遅し。とり返しのつかない結果にならぬよう前の戦争の二の舞いになることだけは避けねばならない。
▽下重暁子(しもじゅう・あきこ) 1936年生まれ。早稲田大学教育学部国文学科卒業後、NHKに入局。女性トップアナウンサーとして活躍後、フリーに。民放キャスターを経て文筆活動に入る。ベストセラー「家族という病」のほか「極上の孤独」「年齢は捨てなさい」など著書多数。