シェフが故・陳建一氏の店に通って習得した「麻婆豆腐」が絶品! IT企業がつくった“日本一の社員食堂”誕生秘話

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 2022年8月2日、創業32年目にして株式上場したIT企業がある。企業向けのクラウドシステムサービス会社「日本ビジネスシステムズ(通称JBS)」だ。虎ノ門ヒルズに本社を構え、売上高1128億円(2023年9月期)、社員数2500人の大企業ながら、BtoBのため、知名度は低い。しかし、同社の牧田幸弘社長が役員の反対を押し切ってつくった名物社員食堂「ルーシーズ・カフェ&ダイニング(通称ルーシーズ)」は、同業他社や大手企業の関係者が視察に来るほどの注目を集めている。この食堂や同社の人的資本経営をまとめた新刊「なぜ最先端のクラウド企業は、日本一の社員食堂をつくったのか?」(発売:講談社)から、企業における社員食堂の役割と牧田氏のこだわりが生み出した効果とは?(以下、本文を一部再編集しています)

  ◇  ◇  ◇

◆社員食堂がある会社は2割しかない?

 リクルートライフスタイルの外食市場に関する調査・研究機関「ホットペッパーグルメ外食総研」は、2018 年に社員食堂についてのアンケートを実施しました。それによると、まず全体において「社食がある」と回答したのはわずか 22.7%。つまり、社食がある会社に勤めているのは4人に1人もいません。

 しかも、会社に社食があると答えた人の半数近い 45.8%が、「ほとんど利用しない」 と答えています。それらの人に、社食を利用したくない理由を聞いたところ、1位は「おいしくないから」で 22.1%でした。2位は「金額が高いから」で 16.6%。3位は「メニューの種類が少ないから」で 15.0%でした。つまり、おいしくて、安くて、メニューが豊富であれば、社員はもっと頻繁に社員食堂を利用するということです。食を通じて社員の健康維持に貢献できれば、昨今取り沙汰されている「健康経営」につながります。

 それができていない会社が多いのは、第一にコストがかかるからです。まずはスペースの確保の問題。厨房機器の購入にもお金がかかります。さらに調理スタッフの人件費、食材費、水道光熱費などのランニングコスト。食品衛生法による飲食店の営業許可なども管轄する保健所に申請しなければなりません。社員食堂を作るのは簡単なことではないのです

◆IT企業がつくった「飲める社員食堂」

 「ルーシーズ」は、2014年に本社を虎ノ門ヒルズに移転したタイミングでつくりました。

 構想自体は2010年ぐらいからありました。移転前の芝公園のファーストビルの周りは、小さな飲み屋はたくさんあるけれども、 10人や 20人といったまとまった数となると、キャパオーバーでした。かといって、ホテルのバンケットでは高くつくし、大げさです。そこで牧田氏は「もっと気軽に使えて、広い店を自分たちで作れないか」と思っていたのです。

 お手本となる店はありました。同じ業界で、居酒屋を経営している会社があったのです。その会社は部長クラスの社員を経営の勉強のために店長にしていました。 自分たちの店ですから、当然社員はお客さまを連れて飲みに来ます。客も珍しいから足を運んでくれる。すると、隣にいるのも自社の社員ですから、お客さまを紹介するなど新しい交流が生まれる――。実際、客としてその光景を目にして、牧田氏は憧れを持ったそうです。「いつかやってみたい」と。それを虎ノ門ヒルズに移転したのを機に実現させたのです。

 飲める社員食堂。ただし、「社員食堂の割には」というレベルでは意味がありません。

 場所は虎ノ門エリアのど真ん中です。一歩出ればおしゃれでおいしい飲食店はたくさんあります。仮に同じレベルであれば社員は外の店にいくはずです。わざわざ会社の中で会社の愚痴を言いたい人はいないからです。つまり料理の質も値段も、雰囲気も周りの店より優れていなければ、「ルーシーズで飲もうよ」とはならないのです。 しかし、JBSの本業は飲食店ではありません。

 そんな一筋縄ではいかない社員食堂作りを、総務部長のSさんが任されました。早速ビル会社に相談し、紹介された社員食堂の専門業者にアウトソーシングしました。食堂の設計もメニュー作りも順調に進み、試食会も行いました。後は工事のスタートを待つばかりという段階で牧田社長に報告すると、その表情が冴えません。何か言いたげな様子です。そこでSさんはようやく気づきました。「社長は社食じゃなくて、飲食店を作りたいんですね?」。すると牧田氏は「そうだ」と答えました。 なぜそこまでして、牧田氏は「飲める社員食堂」にこだわったのでしょうか。

 それは、社員が集まりたくなる「場」を作りたかったのです。そこには、システムインテグレーターならではの働き方が大きく関係していました。 社員の中にはクライアント企業に出向き、社内に常駐してプロジェクトを推進している社員もいます。これを「客先常駐」と言います。JBSでも客先常駐しているエンジニアはいます。客先常駐は、異なった社風や企業文化に触れることができるので、刺激をもらったり、自分を高めたりできるメリットがありますが、一方で自社への帰属意識が弱くなってしまう社員もいます。

 まず、会社にほとんど来なくなります。家と現場である常駐先との往復になるからです。通勤途中に会社があっても、立ち寄る機会は少なくなってしまうそうです。そうなると何が起こるか。会社と客先常駐社員とのコミュニケーション不全が起こるのです。業務報告では書かれることがない、クライアントに関するさまざまな情報が入って来なくなるのです。   

 牧田氏はそういう社員の情報から、いち早く顧客のニーズを掴み取り、満足のいくサービスを提供したいと考えていました。もちろん、社員同士の交流も重要です。仕事を抜きにして語り合うには、食を媒介するのが一番手っ取り早く、確実な方法です。

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