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内田正治タクシードライバー

1951年埼玉県生まれ。大学卒業後、家業の日用品、雑貨の卸会社の専務に。しかし、50歳のときに会社は倒産。妻とも離婚。両親を養うためにタクシードライバーに。1日300キロ走行の日々がはじまった。「タクシードライバーぐるぐる日記」(三五館シンシャ)がベストセラーに。

(28)タクシー券悪用で「キックパック」の誘い…バブル期にはいろんなことがありました

公開日: 更新日:

 バブル当時、温泉地として名高い鬼怒川は「東京の奥座敷」とも呼ばれ、多くの金持ち連中が訪れた。「鬼怒川芸者」と呼ばれる女性も多く、彼女たちも羽振りがよかった。なかには往復タクシーで、銀座での買い物を楽しむ芸者さんもいたのだ。

 いまでは信じられない話だが、まさにバブルの時代だったのだ。ところで最近、ある雑誌のコラムである記事を目にした。

「バブル経済のころには金額を入れない白紙のタクシーチケットを受け取り、運転手が好きな金額を入れていたのである」

 たしかにバブル期、タクシーチケットを巡ってはそんなことがまかり通っていたようだ。だが、私の勤めていた会社では、ドライバーが金額を書き込むことは不正行為とされ、会社では禁止事項となっていた。発覚すれば即クビである。仮にお客が泥酔していてチケットに金額を記入することもできない場合には、そのまま白紙で預かり、レシートを添えて会社に提出して金額を記入してもらう仕組みになっていた。

 あるとき、泥酔したお客に実際よりも少ない数字を書かれたことがあった。「書き直していただけますか」とお願いしたが、前後不覚のお客では話にならない。あきらめて会社に戻り、訳を話して訂正したチケットを提示したことがある。だが、事務職員は冷たかった。「内田さん、これは不正と見なされてるんだよ」と無効扱いにされ、自腹となった苦い経験があった。

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