「大金に手が震えた」若手芸人が打ち明ける“営業”の実態…VIP相手の席で抱いた違和感の行方
劇場の出演料の何倍も…現金の束に手が震えた
世間を揺るがす芸能界の黒い噂。ニュースとして報じられ、真実が明らかになることも増えました。現在は清浄化が行われている芸能界ですが、昔はグレーなこともたくさんあったのだとか。かつて芸能業界で働いていた際に彼らが見た光景とは?
「とりあえず今日のギャラ、ここで渡すから」
そう言って茶封筒を渡されたのは、都内の会員制バーだったという。時計は午前1時を回り、客はほとんど帰った後。暗がりの中、テーブルの上に置かれた封筒を開くと、1万円札が束になっていた
話してくれた芸人A(仮名)は当時芸歴3年目。劇場の出演料の何倍もある大金に手が震えたそうだ。
しかし同時に、彼の心には「これ、やばい仕事じゃないのか?」という違和感が強く残った。
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先輩からの「営業」の誘い
Aが芸人を志したのは大学を出てすぐ。養成所に通い、コンビを組んでネタを磨き、劇場やライブに立つ日々。
しかし、ギャラは交通費すら出ないことがほとんど。事務所から渡される明細には「出演料:500円」と書かれていることもあり、生活はアルバイトに頼らざるを得なかった。
そんなとき、先輩芸人から誘いを受けた。
「来週の金曜、ちょっとした営業あるんだけど、来る?」
営業――企業の宴会やイベントに呼ばれ芸を披露する仕事。
事務所を通すこともあれば、個人的に声がかかることもある。後者はいわゆる“直営業”でグレーゾーンだったが、Aにとっては「とにかく金が欲しい」一心で参加を決めた。
自分はただの酒席の道具なのか?
会場は繁華街のラウンジ。
集まったのは企業の経営者や夜の店のオーナーらしき人々で、酒が進むにつれ空気は乱れていった。芸人たちはネタを披露し、時には下ネタ混じりの即興を要求された。
客は大笑いし、チップ代わりに1万円札を直接渡す。
「お前ら、いいなあ。テレビ出たら俺がスポンサーになってやるよ」
そんな言葉を浴びせられながら、Aは笑顔で頭を下げたが、心中は複雑だった。芸を届けているつもりが、ただ酒席の“道具”になっているような感覚が拭えなかったからだ。
それでも営業の誘いは増えていった。クラブのVIPルーム、豪邸のパーティー、さらには結婚式の二次会。
ギャラは現金手渡しが基本で、封筒に札束が無造作に入っていた。中には「今回はギャラなしだけど、飲み代は出す」というケースもあり、盛り上げ要員にされることもあった。
「誰の金で笑わせているのか」
芸人仲間の間では「営業で稼げているやつは強い」という評価があった。
劇場やテレビに出るより効率的に稼げ、人脈次第でスポンサーに繋がることもある。しかし「あいつ、怪しい営業に出てるらしい」と噂されると、事務所からにらまれテレビの仕事を逃すリスクもあった。
営業は諸刃の剣だったのだ。
特に恐ろしいのは、相手が反社会的勢力や違法ビジネスに関わる人物だった場合だ。
Aの知人芸人の一人は、一度そうした場に呼ばれただけで番組出演を自粛させられ、「闇営業芸人」と叩かれた。本人は深く考えず参加しただけだったが、人生を左右するほどの代償を背負った。
以来、Aは営業の誘いを受けるたびに慎重になった。封筒に入った現金の重みは、アルバイト10時間分の時給を一瞬で超える。しかし、その封筒一つが将来を壊しかねない。お笑いは本来、人を笑顔にするための仕事だ。けれど気づけば「誰の金で笑わせているのか」が問われる場面に立たされる。
後輩芸人の相談に返した言葉
いまAは後輩芸人から営業の相談を受けることがあるそうだ。
「営業の誘いが来たんですけど、行った方がいいですか?」
そのときAは必ずこう答えるという。
「行くなら、自分が本当にその場を笑わせたいかどうかで決めろ。金のためだけなら、絶対にやめたほうがいい」
笑いと金の関係は紙一重
営業は芸人の覚悟を試す場。事務所やテレビに守られたステージとは違い、そこでは自分の価値を自分で判断しなければならない。
ギャラの金額、渡される場所、相手の素性――それらを見極める力がなければ、ただ利用されて終わってしまう。
深夜のバーで封筒を受け取ったときの光景を、Aはいまも忘れられないという。
金の重みと同じくらい、そのざらついた不安が胸に残っているからだ。
芸人は笑わせることで生きる。しかし、笑いと金の関係はいつだって紙一重なのだ。
(おがわん/ライター)