著者のコラム一覧
大竹聡ライター

1963年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社、広告代理店、編集プロダクションなどを経てフリーに。2002年には仲間と共にミニコミ誌「酒とつまみ」を創刊した。主な著書に「酒呑まれ」「ずぶ六の四季」「レモンサワー」「五〇年酒場へ行こう」「最高の日本酒」「多摩川飲み下り」「酒場とコロナ」など。酒、酒場にまつわるエッセイ、レポート、小説などを執筆。月刊誌「あまから手帖」にて関西のバーについてのエッセイ「クロージング・タイム」を、マネーポストWEBにて「大竹聡の昼酒御免!」を連載中。最新刊は「酒好きの記」(集英社新書)

(44)戸隠の蕎麦打ち旅

公開日: 更新日:

 私はこのとき、生涯で2度目の蕎麦打ち体験をした(要予約で誰でも体験可能)。蕎麦打ちのプロと差し向かいで、懇切丁寧に指導を受けながら、必死で取り組んだ。蕎麦粉に水を適度に絡ませて練っていくだけでも、相当に難しい。このとき、適量の水がまんべんなく粉に行きわたらないと、その後、棒で延しても、全体が均等にならない。つまり、まったくダメな蕎麦になる。

 水を含ませた粉を練って空気を抜き、それから円形になるよう延し、四角に延し直し、ごく薄い状態に持っていったら折りたたんで、切る。一連の作業が終わったとき、私はへとへとになっていた。それほど繊細で難しい作業なのだ。こうしてできた蕎麦を茹でてもらい、指導をしてくれた蕎麦打ちのプロの蕎麦と、自分が打った蕎麦を食べ比べた。

「どうです? ご自身で打った蕎麦の味は」

 そう訊かれた私は即答した。

「うまくないですね。私は先生の蕎麦がいい」

 不遜である。せっかく丁寧に指導してくださった方に対して、うまくないですね、は失礼だろう。でも、子供のころからの私の性格が滲み出ている。還暦過ぎて、困ったもんだ。

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