<最終回>自分たちの暮らしは自分たちで
「翔平が頑張ってくれているので、気持ちに余裕があるのは事実です。なにかあったら助けてくれるだろうみたいな。お父さんもずっと昼夜交代勤務だったし、わたしも本当に集中して仕事に入ったりしていましたし。でも……」と加代子がこう続ける。
「子供は翔平だけではありません。お兄ちゃん(龍太=27)、お姉ちゃん(結香=22)は自分で働いたおカネで生活しているし、これからしていくわけです。なのに、わたしたちが翔平におんぶにだっこというのは、お兄ちゃん、お姉ちゃんの目から見たらどうだろうと。やっぱり自分たちの暮らしは自分たちで……」
徹はこう言った。
「仕事を辞めようと思ったことですか?翔平が(高校から)アメリカに行くなら、会社を辞めてついて行こうと。考えたのはそのときくらいですかね。翔平が活躍するようになったからといって、子供に、『ごめん、食わしてくれ』とは言いづらいですよね、親として」
進路ひとつとっても、常に子供たち自身の意思は尊重してきた。人生は一度きり。悔いは残さないで欲しいし、親として可能な限りの援助もする。けれども、自分が選んだことに対する責任は結局、自分自身に降りかかる。子供たちが自分自身の人生を背負っていくように、両親もまた、自分たち自身の人生を背負う。子供は子供、親は親と考えているから、大谷がプロ野球選手として開花したいまも、基本的な考え方や生活のスタンスは変わらないのだ。(おわり=敬称略)