著者のコラム一覧
元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

コロナ禍での中断延長に揺れるJリーグを緊急探訪【川崎】

公開日: 更新日:

公式練習をインスタグラムで生配信

 アーセナルのアルテタ監督ら、欧州サッカー関係者の新型コロナウイルス感染が続々と発覚。日本サッカー協会の田嶋幸三会長(62)も17日、感染したことが分かったことで、Jクラブにも動揺が広がっている。これまで報道陣の取材を許可していたクラブの多くが規制の強化に乗り出す中、川崎フロンターレは「少しでも多くの情報を届けてほしい」とメディアを受け入れ続けている。

 3月14日からは公式インスタグラムで練習をライブ配信。1万人が視聴する反響の大きさだったという。「ファン第一」という川崎らしいアプローチで、彼らは新型コロナウイルスと闘っている。

 東京で史上最速の桜開花宣言が出た14日。しかし、気温2度と真冬並みとなった。さらに冷たい雨が降る中、川崎の選手たちは練習拠点の麻生グラウンドでトレーニングに励んでいた。

 入口にガードマンが立ち、普段は大勢のサポーターで賑わうはずの観客席前に「2月6日よりファンサービス中止」という看板が掲げられている。そこはかとなく寂寥感の漂うなか、キャプテン・谷口彰悟らが笑顔でボールを蹴っていた。

「選手たちが元気なところを見てほしい」と、この日からスタートしたインスタでの練習生配信で、彼らの一挙手一投足を目の当たりにしたファンも多かっただろう。

■吸水用ボトルの共有をやめ個別管理

 報道陣は基本的に練習見学が可能。ただ、入口に体温計が置かれ、各人がその場で計測して平熱であることを確認。消毒薬で入念に手を消毒し、マスクをつけて取材することが必須となっている。
 
 数日前に川崎市内で感染者が出て「いよいよ身近に迫ってきた」という実感が強まり、いつまで取材OKが続くのか、分からない。しかし、可能な限りはオープンにしていきたい意向だという。

「絶対にウチから感染者は出さない」という姿勢はチーム全体に浸透しており、3月から吸水用ボトルの共有をやめ、個別に管理するようにした。

 選手の食堂は、もともとビュッフェ形式ではないが、衛生管理により気を遣っている様子だ。

「手洗いとうがいは当然。不要不急の外出も控えています」と若手成長株の田中碧も言う。

 彼のように20歳そこそこの若者が、試合のない時期に出かけられないのはつらいだろうが、「こればかりは仕方ない。好きなものを食べたりしながらリラックスすることを心掛けています」とリーグ再開に備えている。

 もちろん「早く試合をしたい」というのは全選手に共通する思いだ。

 2月22日の今季J1開幕・鳥栖戦でスタメンから外れたベテランFW小林悠は、「過密日程になればなるほどチャンス。ウチはサブにいたらもったいない選手が沢山いるし、選手を入れ替えながら戦っていける強みがある」とフル稼働に備えている。

 今季加入した大卒ルーキー・東京五輪代表候補である旗手怜央も「本当は試合をやりたいけど、どんな対応を迫られても乗り切れるように準備しないといけない」とはやる気持ちを抑えつつ、4月を待ちわびている。

 彼らにしてみれば、東京五輪が予定通り開催されれば、アピール期間は開幕(7月24日)までの1~2カ月しかない。

「1年延びる可能性が高いって言われてるけど、そうなったら(23歳以下の年齢制限など)出場資格が変わるのか、そのままなのか、分かんない。それに今のままじゃ、どっちにしても五輪には行けない。チームで試合に出ることを最優先に考えないといけないですね」

 旗手は自らを冷静に客観視する。三笘薫、田中碧を含め、五輪代表候補を複数抱える川崎してみれば、五輪開催の動向は無視できない。不安定要素は尽きないのだ。

■「好きなサッカーを毎日やれてるだけでも有難い」

 もうひとつ、難しさを挙げるとすれば、選手たちのコンディショニングだろう。

 当初は18日の再開予定だった。鬼木達監督はそこに向けて練習の強度を上げ、戦術を落とし込み、練習試合で完成度を高めていったが、再開がさらに2週間ズレ込んだことで4~5日の連休を取るチームも出てきた。

 川崎は12~13日と15~16日のオフの間に1日、トレーニングを設けた。

「ウチは真面目な選手が多くて、4~5連休だとクラブハウスに来て自主トレする選手がかなり多い。そうなるとオフにした意味がないので活動日を挟み込む形にしたんです」と、ある現場スタッフが説明してくれたが、これから練習をどう組み立てていくのか? 2年ぶりのJ1王者奪回を目指す鬼木監督も悩ましいところ。公式戦がないのに負荷をかけてケガ人を出しても意味がないし、再開後の超過密日程を乗り切るだけのフィジカルも養わないといけない。

 ルヴァン杯や天皇杯の日程変更など今季はイレギュラーな事態が続くだけに現場の苦悩は深い。

「いろいろ難しいことはありますけど、好きなサッカーを毎日やれてるだけでも有難い。海外クラブなんかは『家に2週間いろ』と言われているところもあるし、僕らは幸せだと思ってます」

 小林悠は神妙な面持ちでこう話してくれた。

 彼ら選手たちが願うのは、サポーターと笑顔で触れ合える環境が復活すること。2018、2019年と2年続けて平均観客動員2万3000人台と、等々力競技場の収容力マックスの集客を誇った川崎に人々が<足を運べない環境>は切ない。閑散とした麻生グラウンド周辺が、活気を取り戻すのは果たしていつなのだろうか? その日がいち早く訪れることを今は祈るしかない――。

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