著者のコラム一覧
佐々木裕介フットボールツーリズム アドバイザー

1977年生まれ、東京都世田谷区出身。旅行事業を営みながらフリーランスライターとしてアジアのフットボールシーンを中心に執筆活動を行う。「フットボール求道人」を自称。

インドネシア代表アルハン(東京V)はASEANの新しいアイコンになりうる

公開日: 更新日:

 12年振りとなった東京ダービーに沸いた味の素スタジアムへ向う車中。スマートフォンに飛び込んできたスターティングラインナップを(車を停めて)見て、思わずにやけてしまった。予想していたプラタマ・アルハン(東京ヴェルディ)のスタメン出場が見事に的中したことが理由だ。

 来日して1年半、出場した公式戦はこの日でわずか3試合。なぜにアルハンをそこまで気にするのか? チャナティップ(前川崎フロンターレ/タイ代表)がJリーグを去った現在、東南アジアのフットボールシーンを追い掛ける筆者にとっては、タイ人選手に代わるASEANアイコンになり得るかも知れない──と密かに彼に期待を寄せているからに他ならない。彼の未来は、Jリーグの未来をも担っていると言っても過言ではないからだ。

 日本ではあまり知られていないが、インドネシアA代表とU-23代表を掛け持ちするアルハン。両チームを兼務するシン・テヨン監督に見出された彼は、両翼を攻撃基点のひとつと考える監督のスタイルに合致し、左サイドで攻撃の起点となり重宝がられている存在なのだ。

 昨年6月(A代表/アジアカップ最終予選)、11月(A代表/東南アジア選手権)、今年4月(U-22代表/SEA-GAMES=優勝)、6月(A代表/親善試合)と1年半の間に4度、それぞれ長い期間、代表招集されて帰国している。

 先月19日、ジャカルタで行われた世界王者アルゼンチン代表を迎えた親善試合にも出場。東京ダービーで観衆を唸らせたロングスローは、ヤクブ・スウォビィク同様、エミリアーノ・マルチネスをも困惑させていた。

■インドネシア協会トヒル会長の恐ろしい程の野心

 なぜアルハンの動向を気にし続け、そんなにもインドネシアを注視するのか。もうひとつ、強い理由がある。

 著しい経済発展に比例したフットボール事情が、えらく賑やかな国の代表選手だからだ。特に今年2月にエリック・トヒル氏がインドネシアサッカー協会の会長に就いてからというもの、新会長が織り成す勢いと政治力には恐ろしい程の野心を感じている。

 エリック・トヒル。インドネシア有数のコングロマリット「アストラ・インターナショナル」共同オーナーのひとりであったテディ・トヒルを実父に持つ彼は、長友佑都がインテルで活躍していた当時、インテリスタから今もなお、愛され続けるマッシモ・モラッティから株式を買収してオーナーとなった大物インドネシア人実業家と言えば、おわかりになる日本のファンもいるかも知れない。

 またNBAのフィラデルフィア76ersやMLSのD.C.ユナイテッドの共同オーナーをも歴任していた彼が繰り出す、ど迫力の速効性でインドネシアサッカーに変革をもたらしている。

 とはいえ歴史、宗教、人種、政治などが入り乱れる大国。何かと曰くつきな話題にも事欠かない、黒歴史を持つのもインドネシアサッカーだ。

■11月のU-17W杯開催はFIFA会長との密約か

 近年でも2015年、政府の現場干渉を理由に、FIFAから国際大会でのプレーを禁止する措置を下されたことがある。

 また今年5月、インドネシアで開催されるはずだったFIFA・U-20ワールドカップ2023は、国民暴動(イスラム教徒が人口の大半を占めるインドネシアで以前からあったイスラエルとの対立が起因し、イスラエルが大会参加することを許さない勢力によって行われたデモや組み合わせ抽選会中止などの騒動が起きた)によってFIFAに開催権を剥奪(結果、アルゼンチンが代替開催)され、配分されてきた開発資金をも凍結されてしまったのだ。

 しかし、である。その直後、追加制裁を喰わされるどころか、今年11月に行われるFIFA・U-17ワールドカップ2023開催をすぐに手繰り寄せている。これもトヒル外交の成果のひとつと言えよう。ジャンニ・インファンティーノFIFA会長との密約が交わされていたといわれても仕方のない程の交渉力には脱帽だ。

 世界王者となったアルゼンチン代表の最初の外遊ツアーをジャカルタへ呼び寄せた手腕と資金力で、9月のAマッチデーではポルトガル代表とのマッチメイクも交渉中ともいわれている。

 インドネシア大統領の職をも意識したトヒル氏の動きの中で、国民が熱狂するフットボールを重用していることは明らかだろうが、だとしても、会長任期である5年の間、まだまだ世間を賑わす秘策を用意しているに違いない。それもこれもインドネシアの経済発展があってのことだと理解している。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • サッカーのアクセスランキング

  1. 1

    JリーグMVP武藤嘉紀が浦和へ電撃移籍か…神戸退団を後押しする“2つの不満”と大きな野望

  2. 2

    FW大迫勇也を代表招集しないのか? 神戸J連覇に貢献も森保監督との間に漂う“微妙な空気”

  3. 3

    W杯最終予選で「一強」状態 森保ジャパン1月アジア杯ベスト8敗退からナニが変わったのか?

  4. 4

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 5

    W杯8強へ森保J「5人の重要人物」 頭痛の種は主将・遠藤航の後継者…所属先でベンチ外危機

  1. 6

    待望の独1部初ゴール!元軍人の父を持つ帰国子女の日本人DFが代表CBに殴り込み…森保監督も用意周到に“手当済み”

  2. 7

    なでしこ史上初「外国人監督誕生」に現実味…池田太監督の退任の裏にJFA会長の強い意向

  3. 8

    Rソシエダ久保建英が英リバプール入りなら遠藤航は“玉突き放出”へ…11月はゴラッソ連発で存在感マシマシ

  4. 9

    45歳で引退…元日本代表MF稲本潤一「指導者の資質」 識者は“独特の武器”に太鼓判

  5. 10

    もう「草サッカーのレベル」なのに…キング・カズ「還暦プロサッカー選手」に現実味

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がもしFA3連敗ならクビが飛ぶのは誰? 赤っ恥かかされた山口オーナーと阿部監督の怒りの矛先

  2. 2

    大山悠輔が“巨人を蹴った”本当の理由…東京で新居探し説、阪神に抱くトラウマ、条件格差があっても残留のまさか

  3. 3

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  4. 4

    大山悠輔に続き石川柊太にも逃げられ…巨人がFA市場で嫌われる「まさかの理由」をFA当事者が明かす

  5. 5

    織田裕二がフジテレビと決別の衝撃…「踊る大捜査線」続編に出演せず、柳葉敏郎が単独主演

  1. 6

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 7

    ヤクルト村上宗隆と巨人岡本和真 メジャーはどちらを高く評価する? 識者、米スカウトが占う「リアルな数字」

  3. 8

    どうなる?「トリガー条項」…ガソリン補助金で6兆円も投じながら5000億円の税収減に難色の意味不明

  4. 9

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  5. 10

    タイでマッサージ施術後の死亡者が相次ぐ…日本の整体やカイロプラクティック、リラクゼーションは大丈夫か?