所属するトヨタ自動車に育休制度を提案、実現させたトップ男性アスリートに聞いた

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「トヨタが先駆けになるのもいい」

 ──2人目の妊娠が分かり、新たな育休導入に向けて動き出した。

 2人目ができて、もう一度上司に相談したとき、「一度、人事の人に相談してみるのもありじゃない?」と言われ、人事の方に「育休を取りたいけど、このまま取ると競技活動が停止になってしまう。何とか両立できないですか」と。そうしたら「トヨタとして先駆けになるのもいいんじゃないか」と言ってくれた。そこから人事の方にスポーツの部署や関係各所へ掛け合ってもらいました。上司に相談してから7~8カ月で制度ができました。ちょうど2人目が生まれる少し前でした。

 ──トヨタの独自制度で特徴的なのはどういったところでしょうか。

(育休中でも)練習にも参加できるし、試合にも出られるところです。そして、どの練習に出て、どの練習に出ないかを各運動部の監督やコーチと相談して決められます。僕の場合、陸上部として活動するので、練習は一度みんなで集合してそこから走り始めるんですが、個人練習なので、本来は決められた時間でやるものだけど、それを好きな時間にできないかと思ったんです。

 ──個人の裁量に任せると。実際に取ってみていかがでしたか。

 自分さえしっかりしていれば試合に臨めると思いました。陸上部の監督と相談した結果、朝練やポイント練習以外は全部自宅周りでやってもいいということになりました。長距離なので正直、道さえあれば走れる。練習場所には困りませんでした。ただ、1人でもサボらずにやれるという、ある程度の信頼関係がないと成り立たないなというのも感じた。

 ──練習は育児の合間を縫ってやられていた。

 自宅での練習は基本的には子供が寝ている時間を狙ってやっていました。朝なら子供が起きる前にやって、子供が起きるタイミングには家にいて育児をする。日中なら子供が昼寝のとき、夜なら寝かしつけが終わってから。寝るタイミングがずれたら奥さんに手伝ってもらいながら、と時間をうまく調整する形でやっていました。

 ──生まれてすぐに取得したのでしょうか。

 いえ、生後4カ月のとき、4月に1カ月間取りました。4月はちょうど試合に出る予定がなかったので。(最長で)2歳までに2回取れるので、あと1回はどこで取ろうか検討中です。

 ──ちなみに奥さまもお勤めで育休を取られているのでしょうか。

 今は専業主婦です。もともと小学校の非常勤講師をしていたんですが、1人目が生まれる直前に辞めました。

 ──育児は大変でしたか。

 全部大変でしたね。体力ないなあって感じさせられました。すごく疲れましたし、イライラすることも多かったけど、子供の笑顔を見るとイライラが吹っ飛んじゃったり。家事自体は基本的には、取る前からやってたので、そこまで大きくは変わらなかったんですけど、一番大変だったのは、上の子と一日中遊ぶこと、下の子の夜泣きで睡眠不足になったことですね。夜はほぼ1時間ごとに起きていたので。それを毎日やっている奥さんはやっぱりすごい。もっと感謝しないといけないなと感じました。

 ──1カ月間は家族の環境もガラリと変わった。

 そうですね。すごく楽しかったです。合宿もすごく多いので、今まではほぼ家にいなかった。子供も「父親は家にいないもの」というのが染みついていたので、育休中は朝起きたとき僕を見て、上の子が「今日もパパがいる!」と。育休期間中、1カ月毎日その言葉で一日が始まっていました。本当に挨拶代わりみたいな感じで、それを聞くたびにうれしかったです。

■「まず行動しないと始まらない」

 ──西山さんの行動をきっかけに、男性アスリートで育休を検討している方も増えたのでは。

 興味を示している選手は何名かいるようです。他の企業からも何社か「どういう制度ですか」という問い合わせが来たと聞きました。先ほど言ったように、取るうえでは指導者との信頼関係が必要。自分自身で責任を持ってやらないと制度も使うに使えない。その指標に自分がなれたのは良かったと思っています。

 ──般社会ではいまだに男性が育休を取りづらい空気があります。今後、男性アスリートが育休を取りやすくするには何が必要だと思われますか。

 現役中でも子供との時間を大切にしたいという思いがあるのであれば、ダメかもしれないけど、まずは会社に掛け合ってみるのがいいかなと思いました。まず行動しないと何も始まらない。僕自身、1人目の子供のときは動けなかった。「現役中の男性アスリートは育休なんて取れない」という固定観念をまずは取っ払うのが大事だと思いました。今回自分がSNSで発信したことで、少しでも興味を持ってもらう人がいたら、うれしいです。

(聞き手=中西悠子/日刊ゲンダイ

▽西山雄介(にしやま・ゆうすけ)1994年、三重県出身。駒沢大学では箱根駅伝、出雲駅伝、全日本大学駅伝にすべて4年間フル出場。駒大卒業後、トヨタ自動車に入社。2020年、入社3年目でニューイヤー駅伝に初出場すると、3区で11人抜きの快走を見せ、区間新記録を樹立。22年、初マラソンに挑戦した別府大分毎日マラソンで大会記録を更新して優勝。同年、米オレゴン世界選手権に出場(13位)。昨年の東京マラソンは日本人トップの9位でゴール。22年に第1子、昨年12月に第2子が誕生。

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