長嶋茂雄さんは松井秀喜の背もたれをガーンと蹴っ飛ばし、「巨人の4番道」を説いていた
「4番なんだから弱さを見せるな。目を見開いて前を向いとけ」
巨人ベンチは常にテレビカメラに狙われている。マスコミに「試合中に長嶋監督が松井に説教」などと騒がれないよう、グラウンドを見ているように前を向いたまま、「巨人の4番道」を教育していた。決して凡打に怒っているわけではない。立ち居振る舞いを注意していたのだ。
ある試合で完封負けを喫した。試合後、モニターを見ていると「松井、清原……クリーンアップが打てないんだからお手上げですよ。完敗です。またあしたですね」と冷静に敗戦の弁を述べていた。会見後、監督室のドアを蹴り上げる音がした。見ると、すごいけんまくの長嶋監督だった。マネジャーが走り寄る。まだ3連敗なのに……。かつて在籍したカープにはない緊張感だと感じた。すると長嶋監督の怒声が通路に響き渡った。
「バッティングコーチを呼べ!」
私は慌てて監督室のドアをノックした。
「うっちゃん、うっちゃん、座って、座って」
怒鳴られるかと思っていた私は拍子抜けした。長嶋監督は怒っているわけではなかった。